『日本は桜が咲いたんだよ』




君の声が聴きたくて携帯のベルを鳴らす

国が違っても君と繋がるなんて 便利な世の中だって笑った





「そうか。もうそんな時期なんだな」

『隼人はツナくん達とどこかにお出掛けとかしないの?』



「ピクニックってか?あいにく千愛と違ってそんな暇ねーんだよ」

『あはは!学生の頃はお花見とか皆でやってたのにね』


楽しかったなあ、と遠い日のようにぼやく千愛の姿は見えない。想いはせる声だけが電話越しに届き短い沈黙が訪れる





俺が並盛に転入して千愛との出会いは俗にいう運命的に最悪なものだった。

毎日言い争って喧嘩して たまには殴られて。
でも不思議なことで時間が経つにつれて千愛の人柄が見えてきた。

噛み締める口唇、傷ついた表情で握る手のひら



生意気な笑顔の裏で千愛が傷つくのはいつも他人の事ばっかで



こいつは不器用なだけで優しい奴だと思った

そんな風に思ってくるとだんだん目で追うようになって反らせなくなって

純粋に、一緒に居たいと思った。




千愛も俺と同じと知った時
どれほど内心、心踊ったか。今でも忘れられねえ




でもそれはおとぎ話みたいにいつまでも続く事はなくて

お互いに想いあっていても俺達は今は日本とイタリアで暮らしている



日本での最後の日
俺は千愛と小さな約束をした





「‥悪い。」


『もう。なんで隼人が謝るの』

「いつも電話ばっかでまともに会えねえし」


『隼人が日本にいないんだから仕方ないじゃん。電話でも隼人と話せて私は嬉しいよ?』




あの頃した約束はまだ果たされないまま、今では枷となって千愛を縛り付けている


俺がどれだけ手を伸ばしても 現実はとても美しくも残酷に、俺を放そうとしない




「お前は俺なんかを待ってないでさ、」



「‥近くでお前を支えてやれる奴のほうが」



幸せなんじゃねーのか?




マフィアなんてそんな危ないもん

生涯お前は知らなくていい



『‥‥‥』

「もう俺達さ…」




俺が千愛を傷つけるなら
いっそ手放した方がマシだ




『…気持ち悪い』

「………は!?」


『ボンゴレってマフィアで一番って聞いてたけど違うの?ボスの右腕がそんなんじゃ随分弱っちいのね』

「なっ…てめえ!ボンゴレを馬鹿にすんじゃねえ!」


『隼人を馬鹿にしてるのよ。そんなんじゃ誰も守れないわよ』

「んなことねえ!俺は大切なもんをこの手で守るって決めてんだ!」

『じゃあ私を守れるように強くなんなさいよ!』




『…だから私と別れるなんて言わないで』




ねえ、あの約束覚えてる?


『隼人は私に嘘つかないでしょ?だから私、信じてるから』




隼人の仕事は嫌いだけど
私ね、隼人のこと好きだよ



震える君の声が
たまらなく愛しくて、愛しくて


けど抱き締めたくても、俺は息を呑むことしか出来ずに









『早く一人前になって私を迎えに来なさい』



「はっ…気の強えー女だな」

『あはは!今頃気づいたの?』


離れていても君が側に居てくれるって言うのなら



それなら俺は この稼業を頑張り通そうと思う。




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