2人がどこにいるかなんて俺にはわからなかったけど


脚はまっすぐあの場所へ走った




行かなきゃならない
場所がある









知られてしまった











「千愛!」





扉を開けた先 高く広がり、オレンジに色を変えた空の下に

フェンスに背もたれるように座るあいつがいた





やっぱり

「ここに…いたのな」







そこは学校の屋上

千愛は高いところが好きで小さい頃はいつも俺ん家の屋根に登って一緒に遊んだ

それは今も変わることなく学校でもなにかあった時はこいつはいつもここに居て、俺はいつも迎えに来た



目線だけで辺りを見回したが
ここに居るのは千愛だけだった

もう他には誰も居なかった







「…武?」

「よいしょっと‥、隣座るぜ」




隣に腰かけ小さく名前を呼んだ。
ビクッと肩が震え 眼差しの揺れは止むことはなく、さらに不安が募る





「どうしたの?そんな急いで」

「それは俺のセリフなのな」






大きく空気を吸い込み深呼吸

乱れた息を整えながらニカッと精一杯に笑ってみせた




そんな俺をみた千愛は一瞬目を細めたが 敵わないなとどこか諦めたように空を見上げた




「内緒の話なんだけど」






「あたしね、最初はツナのこと周りの奴と同じようにダメツナって思ってたんだ。」


「でも引っ越しして、隣がツナで しかも幼なじみだったみたいで、うるさい子供いっぱいいて賑やかだしなんなんだ!って感じてたけど…ツナとよく話すようになって、みんなで帰ったり遊んだりするようになって」




「ツナを知ってくと‥ツナはダメツナなんかじゃなかった。ちょっと意地悪なとこもあるけどそれ以上に、優しかった」




「あたし いつの間にかツナが好きだったんだ」








「でも‥振られちゃった!武の助言効果なかったよー。…でも相手はツナだしね、こんなあたしの話しも ちゃんと聴いてくれてさっ、」





「笑ってありがとう‥って言うんだよ そんなの、ズルイよね。あはは、まいっちゃった」





フラれる子に優しくしちゃ逆効果なのにね!






「千愛‥‥、」



ヤバい、視界が滲む。目頭が熱い。
力を入れなきゃ なにもかもが溢れてしまいそうだ






「振られちゃっ たから。この気持ちも終わらせなきゃ‥だよねっ、」









空を見据えたまま 独り言のようにしゃべる千愛の頭上で飛行機雲が軌跡を創った

だが滲んだままの空ではきっと見えてはいないだろう





「ねぇ 武ぃー‥っ」





この気持ちをどこにやれば 終わらせられるの?















「もう、 いいんだよ」



千愛の手首を強く掴んだ
掴まえずにはいられなかった




聞きたくない、もうしゃべらないでくれ


こんな千愛 見たくねえ








「もういいって…良くないよ」


「もういいんだよ」



「‥あたしは平気だよ?」

「ムリすんな」




「こんなのって、自分ではいそうしますって‥出来るもんでもないのな」







「なんなのよ‥‥武のくせに。…武には、わからないでしょ!」




放してと叫ぶ言葉なんて関係なかった
ここで手を放せば、何もかもが切れてしまう気がして

本当に終わってしまう気がして







夢中で伸ばした俺の手は
必死に千愛を抱き締めていた





「俺は、千愛が好きだ」









「俺は笑った千愛も怒った千愛も、‥泣く千愛も」




「全部、お前が好きだ」






だから、そんなに強がんな



「なんなの!…なんなのよ、もう 離してよ バカ武」



嫌いよ、もう武なんて





「俺を嫌いでも!…千愛が誰を好きでもいいっ、」






この小さな背中を


「俺にどうか守らせてくれ」












知られてしまった


だけど知ってほしかった


これからの俺らが
どうなったとしても






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