季節も春から段々と移り変わり日が暮れるのも遅くなると、暗くなった夜道を街灯を頼りに帰ることも随分となくなってきた。



大好きな時間でもある部活も終わり、そろそろ帰ろうかと荷物を持ったところで「あ。」と思い出す


そういえば教室を出る間際に配られたプリントは持ってきただろうか。





(たしか笹川から宿題だからって配られて、その後ツナに話し掛けられてー‥)



内容見たらけっこう難しくて、今日は金曜だから獄寺と3人で日曜にみんなでやろーって話して‥



「‥‥‥。」




(‥机の中に入れたのな、たしか)





気づかないフリしてそのまま帰ろうかと考えたけど、勉強する約束もある上 先生がなかなか恐いと評判な教科なことを思いだしやっぱり取りに行こうと校舎に入っていく。







「山本くん。ばいばーい」

「おう!またなー」



校舎内で活動している部活の生徒とすれ違いながら急ぐこともなくゆっくり廊下を渡り教室を目指す。



家に帰ったらなにしようかなー、テレビ見て風呂入ってー‥筋トレしてあとはそうだなぁ。あ、でも今日は早く寝ないと。明日の寝坊はヤバいしな

そうだ帰りにスポーツドリンクでも買うかなー



ぼんやり考え事をしながら手に持っていたペットボトルの蓋を開けゴクリと飲みほし辿り着いた教室の扉を開ける。

そこには先に帰った筈の千愛が居た







「‥、千愛?」

「あ‥武。おつかれー」


「お疲れー。千愛も忘れ物か?」




声を掛ければ肯定するようにまあね、と眉を下げて笑う。


「それよりもさ、武!」

「んー?」

「いーからいーから」



こっちこっち!と窓際で外を眺めたまま手招きをする。
?を頭に浮かべながら千愛の隣にいき視線の先を追うと、部室前でホースを使い水を掛け合って騒いでいる野球部の連中がいた。

最近は暑かったり寒かったりと気温の変化が多いが、今日は割と暑い日に偏っており水に濡れたコンクリートや地面からは熱気や独特の匂いが漂っているようだ




「みんなよっぽど暑いのかな?ふふっ、楽しそう」

「走ってばっかだし俺らは汗だくだからなー。あのくらいが丁度いいって」

「そう?‥あ、先生来たよ」




指先が示す方を見ると顧問の先生が怒鳴りながら走ってきた。それに気づいた1人が走り出すと他の生徒も散らばって逃げていく

まるで追いかけっこをするように逃げ回る生徒達は野球部なだけに足が速い。
追いかける先生もなかなか捕まえられず怒鳴り声をさらに張り上げ応戦する。




「あははっ!みんな元気いいねー」

「明日は試合だし落ち着かねーんだろ。‥俺も混ざりたいのなー」

「じゃあ先生呼んできてあげよっか?」

「それは勘弁だな」



なにそれ!と吹き出す千愛を見て俺も一緒に笑いだす。



明日からの練習試合
夏の予選のメンバー決めも密かに含まれている大事な試合だけに、他の連中も不安と期待で落ち着かないのだろう。

‥まあ その連中の中に俺も含まれるわけだけど。



(そんな素振りを千愛に見せるわけにはいかないのな)




不安がってるとこなんて見せたくねーし。

千愛にはずっと笑ってて欲しーし。






「明日の試合、頑張ってね」

「サンキュー!千愛が応援してくれたらホームランも打てる気がするのな」

「そりゃ武にはホームラン打ってもらわなきゃ困るからね」

「ははっ、そうだな!」




じゃあ、明日は俺のことずっと見てろよ。


ニカッと笑って拳を前に出せば、千愛も「任せなさい」と小さな拳をコツンと重ねた





ただ君がいればそれでいい

(始まりはこれからだから)

(明日も晴れますように)




日が落ちる空、照らされたコンクリートや濡れたグラウンドを窓から眺める千愛は「夏の匂いがするね」と優しく微笑んだ







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