「ねぇねぇ!アイス食べたくない?」



立ち止まって声を掛ければ一歩前を歩いていた彼等も私の方に振り返った




「あぁ!?お前こんな寒いのによくそんな発想思いつくな」

「ははっ!寒い日のアイスはまた格別だもんなー!」



武は話がわかるー!と笑うと眉間にシワを寄せた隼人から舌打ちがはっきりと聞こえた




「…アイスってこの前千愛が行きたいって言ってた店のとこ?」


ツナはマフラーを首に巻き直すと 自身の掌に息を吐き両手を擦った



その息は密かに白い




「ううん、あそこの自販機」

「意外と身近ですますんだ」


指差した先には帰り道にある本屋の隣の自販機 2台の内の片割れ



「俺は良いけど、獄寺君と山本はどうする?」



「俺はいいぜー」

「十代目がそうおっしゃるなら…お供します」



自販機の前に辿り着けば豊富な味のバリエーションと 私を選べと言わんばかりに書かれた言葉が美味しいイメージを引き立てるように並んでいる




「じゃあ俺バニラー」

「俺はダブルショコラにすっかな!」


ボタンを押せばガコンと音をならし今度は早く食べてと誘うようにアイスが姿を表す

冷気をまとわせながら




「…見るだけでも身が冷えるな」

「そーだなっ!」



2人はそう言いながらもベリベリと包みを外し食べだした


(2人ともなんだかんだ優しいなあー)






心がほんのりホカホカした






「千愛はどれにするの」

「んーどうしよっかな」


女の子なら誰もが好きそうな王道のストロベリーか、でも少し渋い抹茶にバニラな組み合わせも捨てがたい



「どっちも甘くておいしいから迷っちゃうなー」


指を右に左に揺らしながらも決定打はまだ出ない




「千愛もそんな感じだと女の子みたいなのにね」





そう言ったツナは嫌味な言葉とは裏腹に少し微笑んで見える



「ツナ超失礼!私だって悩める恋多き乙女…ってあー―っ!!?」


叫び声と共に自販機から姿を見せたのは冷気をまとった抹茶バニラアイスだった




「なんで勝手にボタン押しちゃうのよ〜…」

「遅い」

「ツナ容赦ないのなー!」



キッと睨んでみたがボタンを押した張本人は涼しい顔で自分の分のアイスを決めていた



(いや、いいんだけどね。自分では決めかねてたし。いっそこの結果のがむしろ清々しく…)


「千愛」



(でももしストロベリーを選んでいたら甘酸っぱいイチゴと青春と初恋のハーモニーが口の中に広がったと思うとそれはそれで…)


「おーい、千愛」




ブツブツと自己精神に暗示を掛けている最中 呼ばれた(頭を叩かれた)方に振り返ってみる。

はい と差し出されたツナの手には




ピンクの包みに苺の描かれた
ストロベリーアイス





別名
青春と初恋のハーモニー





「一口食べていいからそれで我慢して」




青春と、





…初恋?






「バカ千愛、 十代目のお手をわずらわせんじゃねぇ!」

「なんだかんだで一番ツナが女の子扱いしてるよなー!」



「いやいや山本。これは、」

?



「ツナも素直じゃないのなー」

「山本、何か言った?」




ははっと笑って誤魔化し空を見上げたら

白い雪が舞いだした






ホントは優しい男の子と


鈍くて疎い女の子の
少し遅い 恋の始まり






(俺は、…まだ始まって欲しくはないんだけどな)


口に広がるチョコの味は



なぜかほろ苦く感じた


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