「おいツナどこいくんだ」


突然立ち上がって歩き出した俺にリボーンは声を掛けた


「ん…、ちょっと借りてた物を届けに」

首を傾げるリボーンに笑みを浮かべ 玄関のドアを開けて歩き出した




手には小さな手紙とノートを持って






君がくれた勇気。










手に持っているそれを見つけたのは、イタリアへ行くために荷物整理をしていたとき

「あれ…こんなノート持ってたっけ」




学校の授業で使っていた物の中に紛れていた水色の使いふるされたノート



どこかで何となく見たことがある





「あ」



記憶にあるのは中学生の時、隣の席で笑う女の子



俺はよくノートを借りてたっけ


「たしか名前は…千愛ちゃん、だったかな」




曖昧に廻る記憶の中、君の呼び名は親しさからではなく 名字の同じ子がいたから皆が名前で呼んでただけの話


隣の席 クラスメート 名字は忘れたし高校も違う
そんな関係だった





何気無くページをめくると現れたのは苦手だった教科の公式と、癖のある千愛ちゃんの懐かしい文字



「懐かしいなー」


中学生の時はいろいろあって怪我したり学校休みまくったりで大変だった


千愛ちゃんはそんな俺をいつも心配してくれてたっけ





優しく微笑みをくれてた君の顔を、もう今の俺は思い出せないでいた



「…このノートどうしよっかな」

返すには月日があまりに立ちすぎて 持ち主にはもう必要ない代物だろう


捨てようとノートを閉じると舞い落ちた一枚の紙



そこには千愛ちゃんからの優しさが詰まっていた






大丈夫?



たった一言。

その文字はやっぱり
千愛ちゃんの癖がある
懐かしい字だった





「……………はは、一言かよ」



でもその言葉は今の俺を動揺させるには十分な言葉だった





彼女は隣の席で俺を、どう思って どう感じたのだろう


対して仲が良かった訳じゃない

恋人だった訳じゃない



授業についていけていない俺への同情だったのだろうか



でも今の俺にあの言葉は「イタリアへ行く」「マフィアのボスになる」「住んでいた世界を棄てる」覚悟を 不安を


言い当てられた気がした






「やっと…決めたことなのに」



はぁと溜め息をつき窓の外を見ると ふいに何かを思い出した





沢田君、大丈夫?
溜め息ばっかりついて…




心配そうに見つめる目


無理はしちゃダメだよ?
でも何事も諦めちゃダメ。自分を信じることで人は変わっていけるんだから


だから沢田君なら大丈夫だよ





いつも優しく笑って
大丈夫って言ってくれた

隣の席のおんなのこ




今は何をしてるだろうか?

それぞれの場所で
自分の夢と現実に立ち向かっているだろうか


いつも心配してくれた君は
まだあの笑顔で笑ってくれているだろうか




俺もまだあの優しい言葉に


応えることができるだろうか









(千愛ちゃんに会いに行く理由が中学のノートを返すなんて)


(リボーンに言ったら射たれるな)



そんな事を考える俺の心は穏やかで

空も雲ひとつなく晴れだった








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