チリン、チリーン


カーテンが揺れれば一緒にそれを響かせる



夏を知らせる鈴。
風の音


私はその音が大好きだから

1つの約束をした。








「千愛まだ待ってんのかー」

「‥別にいいでしょ」

「最近は強い風吹かないからなー」



暑いー、と言って武はガラガラと窓を開ける
ほんのり心地好いぐらいの風が部屋を巡り髪の毛を揺らす。

今は梅雨入りしたばかりで季節特有のじめじめと蒸し暑い日々が続いており、扇風機の風よりも弱々しいそれらに風鈴の音を鳴らすことはまだまだ出来そうにない。




「それにまだ夏じゃねーしちょっと早いんじゃないのか?」

「いーの涼を楽しめれば!それに願掛けしてるのよ」


「願掛け?何を?」

「そんなの武には秘密に決まってるじゃない!」

「‥ふーん。そっか」




武はそう呟くとカーテンレールにぶら下げている風鈴をぼんやり眺めお茶の入ったグラスに口をつける。




‥あ、武ちょっとムスッとしてる。



「そんな拗ねなくてもいいじゃない」

「そんなことないのな。だって大事なことなんだろ?俺に秘密にするぐらい」



だったら叶うといいな!元気よく笑う武に少し罪悪感が芽生えつつ、その笑顔に安心してしまう




だって願掛けなんだもん。言ってしまったら叶わなくなるでしょ、そんなのイヤだから。






こんなこと言ったら武は笑うかな?


もしも、‥もしも風鈴が鳴ったらね

武に好きって言いたいの。

武はいつも一緒に居てくれるけど私の気持ち話したことないからきっとビックリするかな。


いつも優しく笑ってくれるから、傍にいてくれるから。拒絶されたらどうしようって‥



柄じゃないってわかってても怖いから。だから風鈴が鳴ったら、好きって伝えたいの


‥きっかけが欲しいなんてワガママかな。






「じゃあさ、もし風鈴が鳴ったら俺の話訊いてくれるか?」


「武も願掛けするの?」

「まーな!千愛ばっかり楽しそうじゃ俺がつまんねーからな」

「楽しそうって‥。話なら願掛けしなくても聴くけど」

「大事なことだから願掛けするんだろ?だったらそう焦んなって」




ニカッと笑う武に拍子抜けしたけど、それもそうだねと返事をする。



うん。
夏は逃げない。今は風が吹かなくても いつかは必ず音を奏でるから

大事なことだから、焦らないで大切にしよう。







チリン、チリーン


「‥あ れ?」


小さく、小さくなり響いた音。思わず耳を疑う だって風なんて吹いてないのに



「たけ、 し」




風鈴を鳴らしたのは
風ではなく、あなただった





「待ってたって風は吹かないぜ!」


自分でおこさないとだろ?



「‥な、」

ニカッとあの笑顔で屈託なく笑う武にもう声も出ない。
言ってることとやってること無茶苦茶じゃない!



「俺はきっかけなんて自分で作るのな。そっちのが手っ取り早いだろ?」



ってゆーか、俺が待てねーの!



ぐしゃぐしゃと頭を撫でられたあと、囁いた言葉と密かに重なった掌に 恥ずかしさのあまり顔を合わせることが出来なかった。






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