少女はそんな青年を見て




「嘘だよ」


少女は言いました。




「あたしはこの街が大好きだよ。だからこの街の人にとって困ることはしないの」



だからぜーんぶ嘘!
どう? 楽しんでくれた?

また華のように笑う少女を見て、青年は初めはポカンとしていたが状況整理が付いたのか安堵の息を溢した。


でも胸の奥にあるモヤモヤは晴れません





「それじゃ私行かなくちゃ」

「ああ、うん。‥引き留めて悪かったね」



少女は相槌を含んだ微笑みを向けると青年の右側をゆっくり歩き出しました。すれ違い際にほのかに香ったのは花とは別の微かな火薬の匂い




青年が少女を目で追いました
少女の顔は先程の笑顔のまま 少しも崩れてはいません




「君の嘘は…」

青年が悲しげな口調で話します





「‥‥こんな街でも、私は正直に生きてたいの」


少女が初めて困ったふうに笑いました










「お兄さんまたね!」

手を振る少女に青年はああ、と言葉を返す






「…………」




無言の青年は少女が歩いて行くのをただ見守ります。




「君が本当に幸せになれるように、俺がどうにかするよ。‥必ず」



青年は遠くで歩く小さくなった少女にぼそりと呟き屋敷へと足を運びました。






(嘘をつく嘘は、正直者の彼女だからこそ)




fin




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