何時もより日差しが強い日のことです。
町を少し外れた 黄色い菜の花が誇らしげに咲く街道を一人の青年が歩いていました。 周りに人影はありません
青年はいつもは自らが所有している屋敷の奥の奥のずっと奥の部屋で 自らが頂点を勤める仕事で重要な、終わりの見えない書類をしぶしぶながらもこなしています。 そんな日常が毎日続いていました
でも今日は少し違います
本来なら滅多に街の、しかも外れに位置するこの場所を歩くことなんてまずあり得ません。というか用事がないのです。
そんな存在の青年が何故こんな所にいるのかというと、街の噂が発端でした
『この街では住人が一年に一度、義務的に嘘をつかなければならない日が定められている』
それだけならどこにでもあるエイプリルフール。ですが、一人の少女の話が出たところでその話の興味が何倍にも膨れたのでした。
『街の外れに住んでいる少女はいつも幸せそうに笑い困った人が居れば自らを犠牲にしても助ける、まして嘘なんてつけないような正直者で優しい子がいる』
青年はそんな嘘をつけない少女がどんな嘘をつくのか純粋に興味が湧いたのです。
人の通れる道ではあるが脇には雑草がしげりデコボコと小石が散乱するなんとも歩きづらい道を進んで行くと小さな人影が見えました。
背が青年より少し低く、髪はこの街では珍しい光の当たり具合によれば赤にもオレンジにも見える肩ほどに伸びた髪が風になびいて心地良さそうです
どうやら菜の花を集めているようで、左手には篭を下げ中には黄色い花がいくつも確認できます
近づいてみるとこちらの存在に気づいたのか くるりと向きなおし少し砂がついたスカートをパンパンと叩き身なりを整えました
「こんにちは」
青年が挨拶をすれば、ニッコリと花にも負けない笑顔に華が咲いた
「こんにちは!」
こんなところで人に会うなんて嬉しい!幼さの残る声で青年を歓迎します
「君が千愛ちゃん?」
「はい。お兄さんは?」
「俺は綱吉」
「綱吉さん!この先にご用事ですか?」
「いいや、ふらふらと散歩なんだ。そういえば今日はエイプリルフールなんだってね」
「そうですね!街の人は「どんな嘘をついても許される」って浮かれてました」
「そうなんだね。君はなにか考えたの?」
「え?うーんそうですね‥」
あ‥‥少し唐突すぎたかな。少女は頭を抱えて微かに唸り声を上げ考え込んでしまった
しばらく間を置いて ああ、そうだ!と言って少女は閃いたように笑いました
青年はどうせ「明日は雨が降る」「今日は肉が特売日」などの類いの可愛らしい嘘が出てくるだろうと思っていました。
[*prev] [next#] [mokuji]
|