ボスたるもの俺は仕事を溜め込まない主義だ。…というのは嘘で溜め込みたくない主義だ。

そんな気持ちとは反対に机の上には待ちきれんとばかりに山積みにされた書類



(しかも異様に雲雀さんと骸のが多い気がする…)





溜まっていた仕事がようやく一段落つく頃には 他に明かりの付いた部屋はなく、時間を示す針も新しい日を迎えたのは随分前のようだった






「もうこんな時間か。」



んー、と背伸びしながら立ち上がり明日の予定について考えていると チカチカと灯りの付いた携帯電話が目にとまった





ふと覗けば着信履歴


(…やば 全然気づかなかった)




すぐにリダイヤルを押し掛け直した





留守番電話サービスに接続します―――……







(…今日も、すれ違いか。)


出るはずの声の主には繋がらず いつもの聞き慣れた声が流れてきたのを確認すると、溜め息をつきながら携帯をソファ-に放り投げる







日本にいる千愛と話したのは1ヶ月前。

連絡を取り合っていない訳ではないが互いに都合が合わず不在着信が残るばかりだった。




「‥あいつなにやってんだろ」



高校生の頃は毎日顔を合わせていたおかげで電話やメールも必要最低限しかやっておらず、卒業していざイタリアに来てからは連絡も間隔が空く一方だった。



(連絡っていつもなんて切り出しらいいんだっけ?)



こんにちは?
お元気ですか?
お疲れさまです?


安易に思い浮かぶ言葉は逆に距離がある気がして抵抗がある


…っとくれば「いまなにしてんの?」がベターかな。



「‥‥‥はぁ」







本音を言えば千愛をイタリアに連れて行きたかった。


今までのように俺の隣で他愛もない話で笑って しょーもない話で喧嘩して 俺から折れて仲直りして 手を繋いで歩いていたかった




でも俺はマフィアのボスで



今までの世界を捨ててまで命の危険のある俺の隣に千愛を置いておくなんて
俺には出来なかった。







(…あいつの幸せを、俺が潰す訳にはいかない)





「なに一人前にシケたツラしてんだ、ダメツナが。」


「!」


気がつけば口の端を器用に上げてにんまり笑うアイツが扉に寄りかかっていた


「千愛のことか?」






「…起きてたんだ」



「お前、まさかまだそんなことで悩んでんのか」



「…千愛を、俺のせいで失いたくないんだ」



リボーンの放つ気が少しだけ変わった気がしたが ボルサリーノを深く被っているせいか、表情は読み取れなかった

「まだまだお前も所詮ダメツナだな」

「なっ…」





「お前は誰だ?ドン・ボンゴレの沢田綱吉じゃねえのか?

何を恐れる必要がある 惚れた女を傍に置けねえほどお前の積み重ねてきたものはそんなちっぽけなものなのか?」


「!‥俺は、」


「‥大事なもの程 側においとけ」


「リボーン… ありがとう」





やっぱりリボーンには何年たっても頭が上がらないな






ソファーから携帯を拾い上げリダイヤルボタンを押す



留守番電話サービスに接続します―――……





いつもの流れる声。でも今度の目的はその先で








(もしもし……なんか独り言しゃべってるみたいで恥ずかしいなこれ…えっと)

(大切な話があるんだ…ずっと伝えたかったこと。千愛は戸惑うかもしれないけど、俺の気持ちは今も変わらないから。)

(これ聞いたら いつでもいいから連絡して?…必ず出るから)





(……………千愛)




愛してる








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