俺には小さい頃から1つの癖があった



昔から勉強も運動神経も良いほうではなくて人に自分の考えを伝えることも苦手で、みんなからは「ダメツナ」と呼ばれている。


高校生になってそのあだ名を知る人は減ったがなくなった訳ではない。


千愛は汚名とも呼べるこの話を知っている数少ないクラスメイトの1人。





「千愛ー」

「‥‥なーに?」



「早くしないと俺、帰れないんだけど」


「本当にごめんなさいあとこの最後の問題で終わりだから…!」



千愛なんか嫌いー、そう言うとわかってるからといつもの調子で話を流す。
恐らくじゃれてるとしかお互いに思ってないのだろう





この会話をするのはもう何回、いや何十回目だろうか。
すでに夕焼けに染まったグランドを窓ガラスからぼんやり覗けば 運動部が掛け声と共に体を動かし汗を土に溶かす。


そんな青春の1ページを謳歌している彼らの知らない所で俺達は補習という名のプリントをぱらりと捲る

もう世は春休みというのになんで学校に未だに朝から登校してるのだろうか‥





「‥‥ツナは終わったの?」

「うん。もう終わってるよ」


「……ですよね」

「そうだねー」



「‥‥ツナはさ」

「んー」




「ツナって頭本当は良いのにいつも好きで補習受けてるの?」


「好きで受けてるのは千愛だけでしょ」


「もー!いつもそんなこと言う」


「バーカ」



笑って返せば悔しそうに唇を噛む千愛



やれば出来るんだしダメツナも卒業すればいいのに。ポツリと呟く千愛は俺の幼なじみでもあり本当は俺がダメツナではないことも知っている唯一の人




「ダメツナのほうが都合が良いんだよ」


「バカにされてるのに。嫌じゃないの!?」


あたしだったら絶対に嫌!
人から見下されるのも嫌だけどツナがバカにされてるとこなんてもっと見たくない!





…声を荒げるとこなんて初めて見た。けど、




「千愛をいつもバカにしてるのは俺だけどそれはいいんだ?」




俺の言葉にはっとしてほんのり頬を染めた。
そしてすぐに若干だけ怪訝そうに眉を寄せる





「…だからツナも嫌い」

「俺も俺を嫌いな千愛は嫌い」




そうくるかと言う目で
もっともっと嫌い!と唸った







(チクリ)


その瞬間に胸を刺す何か



(ああ、まただ)







好きな子の前では嘘をつく癖、まだ治りそうもないかも。




じゃれあいなんて 本当はもう終わりでいいじゃないか








(だって、フラれたらやだし)







「冗談、好きだよ」




不意に呟いたらきっと、
君には嘘っぽく聞こえるのかな。





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