ぽかぽかと暖かい風に揺られて彼の黒髪が抵抗もなく身を委ねた
車がお屋敷に着くとさっきまで運転席に座っていた彼が自然な動きで助手席のドアを開け手を差し出す
最近いつもこの調子で「どうぞ?」なんて柄にもない台詞を悪戯顔で笑って言う彼に心臓が高鳴る回数は減ることを知らず、頬を染めながら手を重ねるあたしは日だまりの暖かさに翻弄されているだけなのかもしれないと思う事にした。
「千愛、階段はきつくない?」
「大丈夫よ。近頃ますます心配性が発揮されてるわよ恭弥」
そういうと苦虫を噛み潰したみたいに顔をしかめたけど 沢田綱吉にスロープを付けておくように言っておくよと真面目に言うもんだから、あたしはまた笑って繋がった手を握り返した
「こんな穏やかに歩ける日が来るなんて思わなかったな」
「僕の隣は刺激的で退屈しなかったでしょ?」
「ええ、スリリング過ぎていつ綱吉くんの所に泣きに行こうかと毎日思ってたわ」
「それは初耳だね。実際は行ったことあるの?」
「私が行くとあなたが綱吉くんを泣かせるでしょ。…だから行かなかった」
「懸命な判断だね」
(でもすれ違うときに綱吉くんはいつも私の事を気にかけて 話掛けてくれた)
(もう限界かもって溢したら私を引きとめて踏み留ませてくれたんだよ)
「恭弥も綱吉くんに感謝してね」
「?」
なーいしょ!と今度は私が悪戯顔で恭弥に笑ってみせると「別にいいけどね」と少し拗ねられてしまった
「あっ、あの木‥」
階段を登る時にいつも目についていた小さな若い木。風が吹く度にしなってしまう枝に、花は咲くのかと心配もしていたけど
今じゃ私と同じ背ほどに育った若い木は無事に蕾を実らせたようでほっと安心した
「あれがどうかした?」
「大きくなったなと思って」
「‥‥そう」
また暖かい風が吹き抜ける
それが悪戯のように2人の髪を遊ぼうとするのを 恭弥は抵抗するように私の髪を抑えてくれて、もう春なんだねと呟いた
「ねえ恭弥、男の子が生まれると思う?女の子が生まれると思う?」
恭弥はそう言うと不思議そうに首を傾げたけど 私のお腹をさすって微笑んだ
「男とか女とか気にすることないよ。千愛と僕の子供にはかわりないだろ?」
「ふふ、そうね。ありがとう」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」
僕と出逢ってくれてありがとう
「一生をかけて幸せにするよ。2人ともね」
辿り着いた先には
「それじゃあ私は一生をかけてこの子と2人で恭弥を幸せにするわ」
登り詰めた階段の後ろを振り返ることなく お屋敷の扉を2人で開けた
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