教室の窓が少し開いていてカーテンを揺らす
机の上に広げた本をパラパラとめくり メガネまで掛けた俺の読書の邪魔をした
風は昨日に比べて暖かくなった。そういえばどこかの地域では梅の花が咲いたそうだ まだ夜は寒いがもう春の声はこの並盛にも小さく音を奏で始めていた
「あ、獄寺くんはっけーん」
「あ?‥‥っと、千愛か よう」
俺が教室にいたらわりぃのかよ、悪態をついても千愛は馴れた感じで笑って近づいてきた
今は十代目が職員室に呼び出されている。十代目を呼び出すなんて何様のつもりだと怒鳴り込もうとしたら「ダメだよ獄寺くん!」と止められてしまった。
「今日は珍しいね」
「放課後だからってすぐ帰らない日だってあんだよ」
そっか今日はそんな日か!と千愛はころころと笑った
こいつと話すと調子が狂う。
クラスの奴は怯えるか、なにか裏があるかのようにムダに頬を染めて近づいて来るか。だけどこいつはそんなんじゃなくて 特別仲が良いって訳ではないが他の奴と俺を変わらずに接してくる
こんな変わった奴は片手で数え終わるぐらいしかいないから、自然とこいつを目で追うようになっていた
「なに読んでるの?」
「これか?地球の神秘…最も神秘が多いとされるアジア編ってやつでな!今ミステリーサークル発生の必須条件の特集やっててこれがさ、」
(あ、やばい)
ついつい嬉しくなって話しちまったが千愛の目がおっきく見開かれてポカンとしていた
(やべ、やっちまった‥)
こんな趣味全開の話 興味ないやつからしたら迷惑極まりない。 俺も野球野郎から遊ぶだけならいいが、散々野球の話だけをされても欠伸を噛み殺すのに全力を注ぐだろう
「へーそんなのがあるんだ!それで必須条件ってなんなの?気になる!」
表情を変えたかと思えば目を輝かせて俺の話しに食い付いてきた
(なんだこいつ、おろしれぇな)
こいつは俺とは違うかもしれないと不覚にも嬉しくて思わず口が緩んだ
「べっ‥別にいいだろ!ところで千愛は何しに来たんだよ」
「え?んーと、忘れ物をとりに?」
なんで疑問系なんだよ、俺が知るか。
‥‥でもそっか じゃあもう帰っちまうんだな
「でも良かった!なんか遠くから見た獄寺くん泣いてるように見えたから 心配しちゃった」
「んなっ!バカそんなわけねーだろ!?」
ころころ笑う千愛が急に大人びたように優しく微笑むもんだから、
俺の心臓は高鳴って千愛から目を離せなくなった
シンプルに考えた結果
こんな気持ちになるやつ 片手で数えるどころか
「一人しかいねえじゃねーか」
千愛が後にした教室で 窓からそよぐ風が読みかけの本のページをパラパラとめくり、その音だけが
教室に響いた
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