今日は雲1つない天気
あの日もこんな青空だった









千愛を、

‥あの惨めで弱い俺を思い出すこんな日は



ずっと ずっと
嫌いだった













「今日もいい天気?、綱吉」

「‥うん。今日も晴れてるよ」



そう言うと千愛はきまって優しく微笑む。よかったといって見えない空に感謝する





「今日は調子がいいみたい!
ねぇ外に出ちゃ…ダメ?」



こう言う千愛はいつもの事。そして気づかれないように 困ったように笑う俺もいつもの事



「今日は獄寺くんを待たせてるからまたね。それに今外出許可取ったらみんなで出掛ける約束の日に取れなくなるかもしれないだろ?」




誤魔化すように頬に手を伸ばし優しく包む

千愛は俺を瞳に写すのをやめ 真っ白すぎるくらいなシーツを掴み皺を造った自分の手の方を見つめる。


まるでその仕草は瞳に世界が見えているようで





だけどそんな事は決してなくて






ちぇ。 微笑み頬を膨らます千愛を何度見ただろう
俺は笑顔の千愛が一番好きなはずなのに、淋しい瞳をする千愛が頭から離れない





「…もう、あたしの世界に余裕はないんだよ」



そう呟いた声に、返す言葉が浮かばなかった 声が出なかった





窓の外では空が泣き
千愛の声をかき消していた





世界は千愛から自由を奪い

色を奪い 声を奪っていく





世界に永遠がないように
季節が終わり廻る為に




(君は確かにここにいるのに)


もうすぐ、俺から千愛を奪うだろう





いつからだろうか



俺はもう思うように笑うことが出来なくなっていた












俺は千愛の部屋にいた
今日も空は泣いていた






「綱吉、今日も晴れてる?」


こう言う千愛はいつもの事。そして気づかれないように 困ったように笑う俺もいつもの事




「うん今日も、‥‥ううん。今日は雨だよ」





俺は嘘をつくのを止めた。
たぶん、千愛と会うのは今日が最後。心の何処かでそう感じる自分がいた




「そっかぁ雨なんだ。…なんだかほっとしちゃった」




もう泣いてもいいんだね





そう言って笑う千愛の肩は震えていて、こんなにも彼女は小さかっただろうか?




別れを惜しむかのように
空は世界をひたすら濡らしていく







「綱吉」





優しい声色で呼ばれる名前

千愛は全てをわかっていた
自分自身のこと
世界のこと



もうお別れが近いこと





(ああ、どうかいかないで)




その先を 言わないで








「私は幸せでした。ありがとう」



世界で一番愛しい人が
本当に綺麗に笑ってみえた








それが最期に交わした言葉




俺は彼女の為に何もしてあげられなかった。

歯をくいしばる事しか出来なかった





「俺も幸せだった。ありがとう」


言葉は彼女に届くことなく




彼女の世界は静かに終わりを告げた







彼女の部屋から出る頃には空は泣くのを止めていて



俺の言葉は嘘になった




「…こんな俺を、君は笑うかな」




見上げた空は
彼女が望んだ青空だった







それは叶わなかった
願いごと


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