ドロリ




溢れ出る赤








ドロリ




微かに動く口、言葉は紡がれることなく 白い息と共に空に溶ける








ドロリ




見据える先には

何が映っているの?






希望にすがる伸ばされた手は

空に届くこと無く
呆気なく落ちた









空は暗く 風は冷たい

路地裏にきらびやかな灯はないが、少し歩けば 何事もなく話される声 明るい街並み



目の前にある現状を知らない人達の時間が止まることなく流れすぎていく





知らないこととは
どれほど楽で、残酷か





地べたに座りこみ地面の冷たさを感じながら空を見る


「星が、見えない」




出ていないのか、見えていないのか



今のあたしには分からない。





丸めた背中の後ろから足音と甘い匂いが近付いた



きっと 彼だ







「早く泣き止め。折角の化粧が台無しだぞ」

「…だって 悔しい、よ リボーン」



私がしっかりしていれば
仲間が死ぬことはなかった






「今日は娘の誕生日で」



「ぬいぐるみ、渡すんだって」




脳裏に浮かぶのは最後に会話した話。あの笑顔。







「もう終わった事だ。忘れろ」



「……無理」



「じゃあ考えるな」



「…………」

「千愛」





「…そんな優しい目で、見ないで」


「お願いだから」




彼自身の纏う雰囲気からか、
ボルサリーノに隠れる冷たくも感じさせる黒い瞳も 奥底の優しさを私は知ってるから






こんなんじゃ駄目だってわかってるのに


受け入れてしまうのが、慣れてしまうのが怖い






「千愛には……まだ早かったか?」

「!……そんなこと、ない」






慣れてしまえば、この気持ちもなくなるかな



「…リボーンの言う通りマスカラも落ちちゃって化粧がぐちゃぐちゃだ」




屋敷に戻って報告しなきゃ




下手な作り笑顔を浮かべ立ち上がろうと前屈みになれば、寄り掛かった黒い背中



囁かれる名前

私は返事をしなかった




「…誰でも最初は受け入れられないものもある。それが大切なものなら尚更だ」



「それが人間だ。…その気持ち、忘れんじゃねーぞ」



やっぱりこの人は


「泣くときは遠慮なく頼れ。男の胸なんてその為にあるようなもんだぞ?」




どこまでも





背中から伝わる温かさに

あたしも身を任せた




「胸は借りないけど、少しだけ…甘えさせて」




涙を流す私と対照的に 顔の見えない貴方は笑った気がした












嬉しくて流す涙も、悲しくてながす涙も


精一杯 現実を受け入れようとしてるんだぞ




ゆっくりでいいから
受け止めろ


それまでこうしててやるからな


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[mokuji]