二階から海面
「あ、」

と思ったらもう遅い。
ぐらり、と傾いた体は足場から身を離して、宙に放り出された。

「った、ゴぷっ!?」

けれど、地面に叩き付けられるはずの体は空中で波に攫われた。



第一章
白波の代償




「ゲホッ、ゴホ、ゴホッ」

口の中が塩辛く喉がヒリヒリする。海だ、私が落ちたのは海。固いアスファルトの上じゃなくて、海。
あまりにも突然で驚いて、無我夢中でもがいて捕まえた木の破片に体の上半身を乗せる。うん、大丈夫そう。
周りには木片ばかりで、近くには半分しか見えない沈みかけの船。じゃあこれはあの船の残骸か。ならば、なにか、誰かいないのかな。ぐるりと見渡すと近くに今つかまっている木片よりも大きな木片があったからそれに乗り換えて、体を全部海面から出して、って。……あれ?

「からだが小さい?」

両手をみて体をみて、……うん、小さい、それだけじゃなく服装もとても質素なものになっている。

「なにこれ……」

海に落ちて、体は小さくなってて。意味かわからない。てか体が縮んでいたって、どこの名探偵!?

頭がおかしくなったいるのか、それとも夢か。夢だったらいいと思うけど、体の震えや喉の渇きがリアルで夢じゃないとわかってしまう。これが現実で、本当だったら。私は、死ぬ、このままだと間違いなく。ピクリとも動かずにただ波に漂う周りの死体と同じように、なってしまう。

「それは、いやだな」

そんなのは望んでいない。誰か、いないのか。いつの間にか天候は雨になっていて。体に纏わりついた海水が流れてベトベトはなくなったけど。こんな布のような服じゃ、寒さはしのげない。

「寒い……」

寒いし、疲れたし、何よりも眠い。眠って起きたら、家にいるのかもしれない。そうだったいいのに。まぁ、そんなことはないんだろうけど。下に向けていた顔を上げて、もう一度探す。

「……あ」

見つけた。まだ遠くてほとんど見えないけれど、確かにこっちに向かっている光が。距離が近くなればそれが船だとわかる。その船はもうほとんど沈んだ船に近づき、私に気づいたのか向きを変え少し動いて

「え……?」

甲板から、人が下りてきた。ピョンと落ちるように海へ。
そしてその人はもの凄い速さで私の乗っている木片に近づき、そのまま私を担いだ。

「嬢ちゃん大丈夫か!?しっかりせい!」

助けが来た安心かそれともこの人のせいか、私は意識を飛ばした。




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