SS<ターレス×カカロット>




※惑星ベジータパラレル。タレカカですが、カカさんが…黒髪さんと金髪さんに分離してます。ねつ造設定、割とシリアス気味。苦手な方はごめんなさい<(_ _)>



【Separated from Me】



 目覚めると、硬いベッドの上で白い天井を見上げていた。
 
 無駄と知りつつ抵抗した時、腕に打たれた鎮静剤の跡がズクリと疼き、こめかみが引きつる。

 ゆっくり起き上がり、明かりの消えた部屋を生体データを記録し続ける液晶の光を頼りに見渡してみたが、特に興味を引くようなものもない。カカロットは腕や胸に貼りつけられた電極を乱暴に剥がし、全裸の身体をくるぶしまで覆った白い検査着のまま、素足を冷たい床につけた。

 勝手に部屋を出られるのか危ぶんだが、扉はボタンに反応してアッサリ横に滑っていく。


 ――用済みってことか。

 まだ少し幼さの残る顔立ちに似合わない皮肉な笑みを浮かべ、カカロットは振り返ることなく暗い部屋を後にした。


 非常灯だけの薄暗い廊下に出てみると、人体センサーがカカロットの存在を感知し、足元のライトを点灯させる。頭上の照明が点かないところを見ると、まだ夜中なのだろう。足に伝わる冷たさよりも、心がどうしようもなく冷え切ってしまい、歩く度、説明のできない感情が腹の中で暴れまわる。こみ上げた嘔吐感を堪えつつ、メインルームを横目に廊下を歩き続けた。

 時間にすれば5分もかかっていない。
 だが、鎮痛剤の影響と重く胸を塞いだ感情のせいで、出口が見えるまでが果てしなく長く感じられた。

 家に帰ったところで、もう自分は昨日までの自分ではない。
 行き場を見失った心はとうに限界だと悲鳴を上げていた。

 溜息を噛み殺してケミカルセンターを出ようとした時、不意に何かに気付いて足を止めた。
 表へ出る扉の直ぐ後ろには、別棟への渡り廊下に続く一回り小さな扉が淡いグレーの壁に溶け込んでセキュリティパネルを鈍く光らせていた。


 ――行って、どうすんだ。

 頭の中で自問しながらも、出口とは別の扉にくぎ付けになってしまう。
 ガンガン痛みだした頭に呼応して顔から血の気が引き、カカロットの表情は彼をよく知る人間から見れば、とても同一人物とは思えないほど硬く強張っていた。

 結局、暫しその場に立ち尽くした末、何かに操られるように片手をセキュリティパネルにかざした。

 どうせ開くはずない。

 カカロットの予想は、目の前に開けた渡り廊下への道を許す無感動な音にアッサリ打ち消された。

 雲を踏むような心地で僅か数メートルの渡り廊下を歩き、別棟への扉を開く。
 こっちへ来いと呼ぶ声が理性を飛び越えて本能に直接響き、カカロットは無言で数個並んだガラス張りの箱の前に立った。


「………。」

 頭で理解していても、目の当たりにして言葉が出るはずもない。
 強化ガラスの器の中、青白い光に浮かび上がる全裸のサイヤ人は紛れもなく自分自身だ。

 もっとも、培養液に浮かんだ人間を見て、これが直ぐにカカロットだと分かるものはいないだろう。
 クローンという言葉から連想されるそっくりな容姿には程遠い金髪の青年は、閉じた瞼の下に青い海の宝石の色をした瞳を隠していた。
 

「――ッ!!」

 無言で見上げているうちに、先刻と同じ吐き気に襲われ、口を手で覆う。
 硬い床に膝をつき、泣くこともできずに震えていたカカロットは、不意に誰かに腕を掴まれた。

「ターレス……。」
「やっぱり来たのか。」
「………。」
「こんなところに一人でいたくないって、こいつが呼んだのかもしれないな。」

 冗談めかして笑いかけてきた男は、同じ下級戦士で、兄の悪友だ。
 あまり人づきあいがいい方ではないという噂だが、何故かカカロットのことは幼い頃から可愛がってくれていた。
 成長につれ、身体を重ねる関係にもなっていたが、相手の思いを確かめたことはない。
 深い感情の交換を望まない性質だということを肌で感じていたせいかもしれない。

 そのターレスがどうしてここにいるのかは分からなかったが、いつになく穏やかな黒い瞳を見上げていると、堰き止めていた感情が一気に押し寄せ、カカロットはターレスにしがみ付いて全身を震わせて嗚咽し始めた。

「……泣くな。おまえはここにいる。そうだろう?」
「で、でも…っ、こ、こいつ、も…オラ、で……っ、それに、オラなんかより、強くて…っ、遠征……でも、役に立つ、し。オ、オラ…っ、これから……どうすりゃ、いいか。」

 喉をヒクつかせ、訴えるカカロットの頭を撫で、無言で激情を吐きださせる。

「……えげつない、話だな。」

 ポツリと呟いたターレスの声に、珍しく怒りが滲む。


 それは一月ほど前。
 遠征先で絶体絶命のピンチに陥ったカカロットは、突然伝説にすぎないと思われていたスーパーサイヤ人に覚醒した。

 きっかけは、敵の攻撃から自分を庇った兄のラディッツが、瀕死の重傷を負ったことだったらしい。
 もっともカカロット自身の記憶は曖昧なもので、気が付いた時には、目の前には荒野と化した大地が広がっていた。

 幸い一命を取り留めた兄の助言に従い、覚醒したことは秘密にしていたが、同行の他の戦士から漏れるのは時間の問題だった。
 謀ったように父と兄が長期遠征に送られ、ケミカルセンターに半ば拉致されて連れて来られたカカロットは、スーパーサイヤ人に覚醒した状態で自身のクローンを作る計画を聞かされた。


「ターレス?」

 培養液の中のクローンをジッと見据え、沈黙しているターレスを見上げて不安げに問いかける。

 自分を抱きしめている男の関心も、より強く美しいものに向けられるのだろうか。

 カカロットはターレスに回した腕に力を込め、鼓動を確かめるように分厚い胸に耳を押し当てた。

「カカロット。」
「?」
「……オレと一緒に来る気はないか?」
「え?」

 予想もしなかった言葉に泣きぬれた目を大きく見開く。

 ターレスはまだ目覚めることを許されていない金色の青年から視線を外し、頭一つ分低い位置にあるカカロットの黒髪をかき上げ、額にキスを落とした。

「――元々、この星にずっといる気はなかったが、今度のことでつくづく嫌気がさした。所詮オレたち下級戦士は…、使い捨ての、道具扱いだ。」
「ターレス……。」
「おまえが、……ついて来る気があるのなら、仲間にしてやってもいい。」
「仲間……って。」

 目の前の男には似つかわしくないキーワードに戸惑いつつも、抱き寄せられた身体を離す気にはなれない。カカロットはターレスの意図を掴みきれないまま、不安げに瞳を揺らした。

「要するに…オレと一緒に宇宙を気ままに旅して、好きな時に戦って、楽しく暮らさないかと誘っているんだ。」
「オラ、で…いいんか?」
「ああ。――おまえ以外なら、誘う気なんて端からないさ。」
「おめぇが、そう言ってくれるんなら、オラも行きてぇ……、ここにいても、自分が自分じゃねぇみたいで。ただ……。」
「分かってる。」
「へ?」
「――否定するから、受け入れ難いものになるんだ。ここにいるおまえも……。」
「んっ、ターレ…ッ、ス……ッ!」

 不意に深く重ねられた唇に応えるうちに、薄い検査着の上から腿を撫で上げる手に身体が熱くなる。唾液を交換し、貪るようなキスを交わしていたカカロットは、まだ快感を知ることが出来る事実に泣き出したい思いとより深い熱への焦燥をぐっと堪え、ターレスの胸を押し返した。

「……続きが聞きたいか?」
「うん。」
「おまえも、……あいつも連れて行く。」
「……ターレス。」
「あいつは、確かにおまえから生まれたんだ。……ここに残して、都合のいい生物兵器にされようもんなら、心が壊れるだろうからな。くだらない…思惑なんぞで、おまえや、おまえに関わるものを好き勝手に扱わせる気はない。」
「信じ、らんねぇ……。」
「オレらしくないか?」

 唇を釣り上げ、クッと喉を鳴らして笑ったターレスに背伸びをして口づけ、カカロットはここ一週間忘れていた笑顔を浮かべた。

「でも、もし……、あっちのオラが、目ぇ覚まして…ついて来るの嫌だって言ったらどうすんだ?――オラたちより強ぇから力づくで説得なんかできねぇぞ?」
「まぁ、とりあえず用意している宇宙船に勝手に乗せて出発する。……オレは、本当なら相手の意思なんぞ気にかける方じゃないんだ。」
「じゃあ、オ、オラは特別なんか?」

 問い返しながら頬を染めたカカロットにニヤリと笑い返し、ターレスは耳を軽く噛んで特有の甘い声で囁いた。

「――今さらか?鈍いな、随分。」
「――っ!」
「それに……。あっちのカカロットも説得には自信がある。」
「へ?なんで?」
「おまえのクローンだろう?……パワーがどれだけあろうと、本質はおまえだ。オレを…拒絶するとは思えないし、……感じる場所もよく知ってる。」
「タ、タタタタ…ターレス!!」
「長い宇宙の旅も、おまえらとなら退屈はしなそうだ。――たっぷり楽しませろよ、カカロット?」
「へ、変態!!」
「そう褒めるな。」

 首筋まで赤くなって拳でターレスの胸を叩くカカロットの肩を抱き、並んでガラスの箱を見上げる。

「あ……。」
「改めて見ると、綺麗なもんだな。」
「――オラより?」
「自分に嫉妬してどうする。おまえとは、また別の魅力だ。」

 二人の話し声に呼応したように青い目を静かに開いたもう一人のカカロットにシニカルな笑みを返し、ターレスは装置を破壊すべく片手に青白い気を溜めた。


 


end

【あとがき】
カカ空…ではありませんが、とりあえず金カカさんも黒髪カカさんも書きたかったの――っていう私の愛と妄想がいろんな事情を捻じ曲げたお話になりました^^;

お祭には少々不向きなシリアスさ?ですが、最後は信頼のタレ×カカカカ(ややこしいな)で、エロティックにも楽しい宇宙の旅に出て下さい、って感じです(笑)。たぶん金黒ちゃんどうしを絡ませるのも、タレさんならば楽しむはずwだって私も絡ませたいもん(笑)。

とにかく悟空さ大好きでカカさんも大好きで、黒髪だろうが金髪だろうが、悟空さは大事に大事に愛されて欲しいのよぉ―――という思いだけはいつもあふれかえっております^^

妙な話にお付き合いいただきましてありがとうございました。お祭参加者様、閲覧者様に感謝感謝です☆

【from來庵】
おおお//////
書かないって言ってたのに書いて下さって本当にありがとうございます//////
來庵もきっと皆さんも待ってましたよ、ねぇ?//////
信頼のタレカカ・・・っていうかタレカカカカになるのか、今回はっ(笑)
黒髪カカさんの困惑、破綻しそうな心に手を差し伸べたターレスにきゅんきゅんさせられました///////
背景に渦巻く陰謀というか歪まされた運命、きっとターレスと一緒なら切り開いて行けるんだろうっていうカカ(黒髪ちゃんね、ここはw)の想いに思わず叫ばずには居られませんでした//////
可愛い〜/////
拉致られてくであろう金カカさんもきっとすぐにターレスに懐きます、愛します/////
宇宙の果てのタレカカカカな旅路はきっと黒髪カカの想像も出来ないくらいの淫靡で蕩けた旅路になることでしょう(*^-^*)

妄想広がる素敵なお話、ごちそうさまでしたぁっ///////



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