SS<純血サイヤ×悟空>-@




【sweet choice】


 電話越しから楽しそうな声がするブルマに呼び出され、ミスターサタンのお屋敷に着いた悟空は早速、女給士達に厨房へと案内された。
 今日は「チョコの日」だ。厨房では女給士達、チチやブルマ、ビーデルとパン、悟飯や悟天やトランクスまでもがエプロンを着て忙しなく動いており、皆は真剣な顔でチョコでコーティングされた様々なクッキーやケーキを作っていた。そういえば三日前からずっと作業をしている事は聞いてはいたが、悟空は修行でちゃんと聞いてはいなかった。
 一口サイズに切り揃えたザッハトルテにクリームを飾る女給士に聞けば、街中の皆に配ると言う事らしい。
 だが街の人口は計り知れないのだ、だからこそ体力が無限大にある悟飯達に協力させたのだろう。巨大なオーブンから出て来る多種多様な可愛らしい菓子達は次々に外へと運ばれてゆく。入口を塞いでいる悟空は慌てて隅へ身を置く。

「なぁブルマ、オラも手伝うのか?」
「冗談じゃないわよ。摘まみ食いされるに決まってるじゃない。それに不器用だし」

 反論できないことを返されては何故呼んだのかと再度問えば、ブルマはホイップクリームを作りながら悟空にある物を渡す様に女給士に指示する。
 女給士に手渡されたのは小振りの変哲もない巾着袋だ。悟空がその中を興味津津に覗きこむと、悟空はキラキラした目でブルマを見上げた。

「こんなか、いっぺぇケーキとか菓子が入ってる!!あり?でも何でだ?」
「ホイポイカプセルと同じ原理よ。ほらちゃんと紐締めとかないと、出て来るわよ」
「あ、分かった、オラが配達するんだな!」
「あら、孫くんしては自分の要領分かってるじゃない」

 ブルマが悟空に頼んだということは、悟空にしか行けない場所へと頼みたいのだろう。案の定、ブルマは悟空にチョコを界王神達に持って行って欲しいと頼んだ。

「で?本音はなんだ?」
「いやぁねぇ、別にそんなんじゃないわよ」

 恐らくは、老界王神が持つ絶版した蔵書が狙いだろう。あそこは時が止まった様に遙か昔から何でもある。別に断る理由も無いので、悟空が快く二言返事で了承するのに時間は掛からなかった。



 まず最初に出向いたのは北の界王の場所だ。瞬間移動で行けば、辿り着いた場所は大界王星だった。そこには他の界王達、パイク―ハンやオリブ―達も居た。

「あら、どうしたの悟空ちゃん」

 分かっていて聞いて来るような妙にソワソワした大界王に問われ、悟空はケーキを持って来たと言えば、皆も声を揃えて是非とも食べたいと集まってきた。

「だが悟空、人数が多いが足りるのか?」
「へへーん、そうだと思っていいもの借りてきたんだ」

 巾着と一緒に帯に下げていたペンライトを取り出した。巾着の中から取りだしたのはベークドチーズケーキとガト―ショコラだ。しかしどう見ても全然足りない。
 皆が見守る中、悟空がウキウキしながらペンライトをケーキに翳した瞬間、なんとケーキがだんだんと大きくなるではないか。二十倍もの大きさになって、皆の歓声も大きくなった。
 実は悟空は巾着と一緒にブルマに、質量を倍にさせるペンライトを貰っていたのだ。これで大人数に対処できるという訳だ。

「お主の仲間は本当に面白い物を作るのう」

 数多ある惑星の中で、ここまで生活に密着した物を開発するのはブルマあってこそなのだ。皆が嬉しがればこちらも嬉しいのだ、悟空は次に行くからと軽やかに走って行った。

 次に行ったのは界王神星だった。ちょうどお茶の時間だったらしく、キビトにチェリーパイとショコラフォンデを三人分渡すと、老界王神にブルマの要求を伝える。渋々頷いてはいたが、ケーキを頬張る口は嬉しそうに緩んでいた。
 次は閻魔大王の所。そこでもまた大人数用に林檎のプティングとチョコアイスサンドが山を作った。
 他の鬼達はどうするかなと思った時、悟空は巾着の中を覗いてある場所を思い出した。閻魔大王に話せば怪訝そうな顔したが、許可はしてくれた。

「今日はバレンタインだからな」

悟空の笑顔に誰も異論は唱えなかった。嫌な予感を覚えたが。

 悟空が瞬間移動で辿り着いたのは地獄だった。しかもフリーザの上に。下敷きにされたフリーザは悟空を睨むが、悟空には効果は無い。近くに居たのかギニュー特戦隊やセルも居た。
 悟空が嬉々揚々としてバレンタインの話をすると、いつもは興味を示さないフリーザとギニュー特戦隊が話しに混ざってきた。

「まぁ、食べてやらない事もありませんよ」
「当然、私には特大のを用意しているのだろうな」
「なぁなぁ、それってチョコレートパフェより美味いか?」
「地球人は面白いイベント作るもんだな〜」
「ちょこれいとってなに?」

 何処に隠れていたのか、悟空すら覚えていない敵がゾロゾロと津波の様に押し寄せてきた。小さな巾着から菓子を取り出そうとするが、まるで獲物を捕えた狼の様に、悟空を怖れていた時とは正反対に飢えた声で迫ってきた。

「ちょ、まったまった!!あげるからんな詰め寄んなって!!」

 そんなんじゃあげられないと叫べば、地獄の死者達は反抗的な態度はゴミ箱へ捨てたのか律儀に悟空の前に列をなす。横入りしようものなら制裁を喰らうくらいだ。そんな統一感をいつも発揮すればいいものをと考えながら、綺麗にラッピングされた色とりどりのクッキーを手渡そうとした瞬間、遠くから心臓が凍りつくくらいの地響きが轟いた。
 遠くを見やれば、地平線まで並んでいた死者達が何かに押し寄せられるように散り散りになってゆく。よく見れば投げ飛ばされているではないか。

「だ、誰です横入りする輩は!!」

 フリーザが正体を知ったのと、悟空は危険を察知してく宙へ逃げたのは同時だった。周りを蹴散らせて突進してきた強大な影の正体はブロリーだった。

「カカロットォォォォォォ!!!!!」
「でたぁぁぁぁぁ!!」

 悟空の悲鳴を代弁するように、先頭に居た死者達は泣きながら逃げようとするがブロリーが暴れ出した後では逃げようがない。しかも初めから伝説バージョンだ。セルでも勝てるかどうか分からない奴に、フリーザが勝てる訳がない。
 だが悟空も何も対処も無く来る訳がない。すぐさま巾着から、ブルマから貰ったもう一つのアイテムを取り出すと、それを躊躇なく地面へ叩きつける。
 バレーボール程度の大きさの球体だ。ガラス玉が地面にぶつかって破裂した瞬間、真っ白に視界が埋まった。
 ボボンッ、と軽やかな破裂音と共に視界を埋めた真っ白な物体の正体はマシュマロ、ホワイトチョコ、キャンディー、綿飴が、まるでポップコーンのように飛び散って地獄の空と地面を一部埋めつくした。食べられる甘いシャボン玉が宙に舞い、死者達が喜びに騒ぐ中、ブロリーもちゃっかり菓子を頬張っていた。そして気付いた時には悟空の姿は消えていて、甘いマシュマロ達を食べ終えてからポツンと取り残されて怒り狂ったのはいうまでもなかった。

 間一髪逃れた悟空が次に向かったの先には、見覚えの顔ぶれが揃っていた。悟空がお菓子を持ってきたと鬼達から話を聞いていたのか、バーダックとラディッツとタ―レス、あと見覚えのあるサイヤ人も居た。
 さっそく悟空は巾着から菓子を取り出すと、まず最初に手渡したのはバーダックだ。

「父ちゃんは甘いの嫌いだからな、苦いチョコ持ってきた」
「だからってシュガ―チョコかよ」
「兄ちゃんはこの前、煎じてくれたお茶美味かったから、抹茶味のヤツな」
「お、おう。サンキュー」
「ナッパはクランキ―チョコな。え?なんとなく?」
「俺の頭を凝視すんじゃねぇ」

 かつて戦ったダイーズ達にも菓子を配り終えて、余所へ行こうとして突然胴着の裾を掴まれた。振り返れば、いつも強気な態度のタ―レスが泣きそうな顔で悟空に縋りついていた。



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