SS<クウラ×カカロット>-A




 サイヤ人の中では最下級タイプの黒髪を揺らせ、赤ん坊は無邪気に笑う。クゥラの指先を掴んで、それを口に含んだり小さな手で握り返したりと好きにさせていてもクゥラは怒らないし何も言わない、それどころか笑みを浮かばせていた。
 弱い相手ならそれだけで射殺せそうなクゥラの笑みが、まったく鋭利が含まれておらず穏やかで、僅かながら慈愛が含まれていた。機甲戦隊達も皆、不器用ながらに赤ん坊の、カカロットの笑みを見つめ笑い返していた。

 なんという光景だろうと、フリーザは言葉を失う。感動ではない。赤ん坊の笑みを見ても、フリーザには何も感じなかった。後ろにいるドドリアとザ―ボンも同じだった。

「話は以上だ」
「では失礼します」

 赤ん坊に向けられていた笑みは何処へやら、冷たい表情で弟を見るクゥラに、フリーザは我に返ると慌てるのを必死に隠して部屋を速足で出てゆく。一礼してドドリアとザ―ボンもフリーザを追いかけて行った。

「よろしかったので?」

 黙って一部始終見ていたサウザーがクゥラに問いかける。玉座に座るクゥラは弟が出て行ってしまった扉を見つめながら、別段興味さなそうに応える。

「アイツが父上に何かほざいたとしても、俺には何も通用しない」
「それもありますが」

 サウザーが思案気に微笑んで、赤ん坊をクゥラの膝の上に座らせる。
 かつてはそれすら嫌悪するほどこの小さな存在を毛嫌いしていた筈のクゥラが今や、優しく赤ん坊に触れる事を覚えていた。

「クゥラ様が変わられた事に、フリーザ様は余程ショックだったようですね」
「所詮アイツも父上と同じで単純なのだ。なれど、…」

 膝上に乗るカカロットを、クゥラは抱き上げる。数か月前はそんなこと思いもしなかったのだ。変化と云うのは面白いとも感じていた。
 物心ついた時から親にも怖れられた自分が、こんな感情を抱けるのだと。気紛れで実行した占いに、クゥラは面倒な事になったと思ったが、これといって嫌悪もなかったのが奇跡に近いくらいだ。
 恐れも無く純粋に触れて来るカカロットに惹かれてしまったのか、それはまだ分からない。いや気付きたくは無かった。それが唯一、クゥラが抱く冷たい感情が崩壊してしまうのを防ぐためのものだろう。



「という事もあったが、お前はもう覚えてはいないだろうな」

 ネイズが遠征先で手に入れた小型ロボットに言葉を教えることに夢中で、カカロットはクゥラの昔話を聞いていなかった。
 クゥラが当時赤ん坊だったカカロットを引きとって(攫って)から数年、子育てに奮闘する機甲戦隊と共にカカロットの成長を見守ってきた。
 教養の為にとサウザーが様々な本を用意し(読んだ形跡は無いが)、ネイズはカカロットに色々な土産物を与え、ドーレは格闘ごっこの遊び相手だった。
 元々興味のない遠征には赴かないクゥラがカカロットを宇宙へと不用意に連れ回す事は無く、ずっとクゥラ達と共に十五年間共にし、戦闘好きのサイヤ人の特徴らしくカカロットは肉体の成長につれ機甲戦隊と並ぶほどに、いやそれ以上に強くなった。
 最初は毛嫌いしていたフリーザも数年経つと丸くなるもので、暇さえあれば兄の目を盗んでカカロットを自分の宇宙船へ招こうとするが、ことごとく失敗している。
 フリーザの誘い文句は生き別れになった兄や同胞に会わせてやると釣ろうとするが、生憎カカロットは自分の種族に対して確執は無かった。そういう風にクゥラが教え込んだのだと、フリーザは気付いていない。
 父のコルドは相変わらず此方のやる事には一切口を挟まない。諦めているのか、それともまだ自分の地位を奪われる事を怖れているのか。興味も無いというのに。

「カカロット」

 許可も無くクゥラの部屋に入れるのはカカロットだけだった。玉座に座ったクゥラに名を呼ばれ、絨毯に小型ロボットを放り投げると軽やかなステップを踏んでクゥラに歩み寄る。
 伸ばして来たクゥラの手に、カカロットは自分の手を乗せる。緩やかに掴まれ膝元まで引き寄せられる。手の甲を撫でられ、カカロットは小さく息を吐く。

「カカロット、スーパーサイヤ人になれ」

 クゥラがカカロットの顔を覗きこむように言えば、カカロットは困惑した表情を浮かべた。

「やだよ、アレになると疲れる」
「五分で構わない」

 クゥラの言葉は命令ではない、頼みでもない。全てはカカロットの返答次第だった。クゥラに見上げられ、観念したのかカカロットは目を閉じてゆっくりと息を止める。
 静寂で満たされていた部屋に、鈴の様な音が響き渡る。悟空の黒髪が揺れ、黄金色の風がカカロットの身体を包み始めて水風船が破裂する様な破裂音の合図に、強張っていた身体が弾かれ金の光りを生みだした。アンダースーツに隠れたまだ成長途中の肉体が僅かに戦慄く。
 閉じていた瞼を開けば黒い瞳は海を連想させる碧玉に、艶やかな黒髪はくすみのない揺らめく金の御髪に変化した。まだこの状態に慣れないのか、表情は僅かに強張って肩に力が入っている。
 伝説とされたスーパーサイヤ人の神々しい輝きに、クゥラは眩しそうに目を細めて微笑んだ。皮膚を突き刺す黄金色の輝きに、少々痛みはあるがクゥラは気にも留めずカカロットの手を握り続ける。

「呪い師が言っていた通りだな」
「なんだそれ」

 カカロットを手元に置くと決めた当初は只の気紛れだった。飽きれば捨て置き、部下達の玩具にすれば良いと考えていた。
 別に繁栄など興味は無いし、強さがモノを言うのであれば自分自身が強くなれば良いだけの事だ。
 だが今になってどうだろうと自分の過去を振り返る。カカロットの笑顔を見れば感情が変わるのが分かった。



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