SS<クウラ×カカロット>-@



【The child of prediction】

 兄が至急飛んで来いと簡潔に連絡が入って、正確には兄の部下が伝えてきた連絡をドドリアが自分の上司であるフリーザにすぐさま伝えれば、それを聞いた途端フリーザは持っていたグラスと床に落とした。

「兄が、クゥラ兄さんが?」

 あまりのあからさまな動揺にドドリアも緊張に顔を強張らせる。ドドリアの隣に立つザ―ボンも冷や汗を流し、その美貌に暗い影を落とした。声を震わせて戦慄くフリーザに、二人は声すら掛け辛くなる。

「ああ、今回はどんな事を言われるのでしょうっ。この前の侵略でしょうか、ああそれともあの件が…」

 すでに脳内で最悪なシュミレーションをするフリーザは、余程兄であるクゥラが怖いのだと感じた。
 だいたいクゥラが自分から弟のフリーザを自分の宇宙船に呼びつける時は、先の侵略のダメ出しか、嫌味か、そしてやっぱりダメ出しする時だ。
 それを長い間受け続けているものだから、フリーザは逆らえばどうなるか分かっている分、瞬間的に震えが止まらなくなるのだ。

「フリーザ様、兎に角今はクゥラ様の元へと至急赴きましょう」

 耐えられず空気を変えたくてドドリアが応えれば、フリーザは我に返る。
 こうしている間にも時間が過ぎているのだ。急いで部下に兄の宇宙船へ全速力で向かうよう命令すれば、フリーザは余りの恐怖に最終形態になっていた。
そんな哀れな上司の背中を見ながら、ドドリアとザ―ボンも同じく命懸けの召集となった。


 クゥラが乗る宇宙船に乗り移った瞬間、スカウタ―が爆発してしまいフリーザは益々その白い顔をさらに青白くさせる。
 「遅い」と遠まわしな脅迫とも取れる威圧感だった。それでも逃げられないのだから、フリーザはドドリアとザ―ボンを従えて兄が居る部屋へと赴かなければならない。
 嫌に無機質に響く廊下を歩き、奥の部屋へと辿り着くと、フリーザから唾を飲み込む音を後ろにいたドドリアとザ―ボンの耳まで届く。二人もクゥラの恐ろしさを知っているから何も言えないのだ。
 軽い音と共にドアが開けば、自分達の緊張を吹き飛ばす様に扉の中から殺気が溢れだした。

「遅いぞ、フリーザ。昼寝でもしていたか」

 フリーザの声と似てはいるが、地の底から響いている様な鋭利さえ感じる声が三人の背筋を凍らせた。
 怖れを捨てて一歩踏み出し部屋へと入る。薄暗い指令室へと入ると、数名の部下を残し皆下がらせているのか嫌に静かだ。その静けさの中に不似合いな声が聞こえた気がしたが、三人は気を取られている余裕はない。
 中央に、玉座が存在する。それを挟んだ柱を背にして立つ、クゥラ直属の部下である機甲戦隊が背筋を正して微動だにせず立っていた。
 そしてその玉座にしなやかな足を組んで座るのは、フリーザが唯一怖れる兄だ。優雅な動作で足を組み換え、クゥラはフリーザを静かに睨んでいる。

「遅くなってすみません、兄さん。それでどんな要件でしょうか」

 遅れた理由を言うのも要件を急かすのも兄の怒りを買うのは長年の学習能力で分かっているフリーザは、謝罪共に要件を問いかけた。
 窺い見るのも兄は嫌うので、はっきり問えばクゥラは興味もなさそうに視線をフリーザから外すと、自分が座す隣に視線を移すと、自然とフリーザもそこへ視線が行って、そこでようやくもうひとつの気配があるのに気づいた。
 玉座の傍にいる気配に目が行って、フリーザと後ろにいるドドリアとザ―ボンですらその光景に言葉を失う。
 そこには、一歳前後の赤ん坊が居たのだ。三人はその光景に理解に苦しんだ。余りにも不似合いな光景に、言葉を失うとはこの事だ。
 それでもフリーザは勇気を振り絞って問いかけなければならない。この異様な空間でクゥラと同等に発言権を持つのはフリーザだけだからだ。
 
「に、兄さん、その子は…」

フリーザの問い掛けにクゥラは赤ん坊を一度見ると、冷静に応えた。

「名はカカロットだ。先週から俺の元に居る」
「そうですか、カカロットと…」

 フリーザも納得しそうになって、途中でおかしいと気付く。兄に勇気を振り絞って問いかけたのは名前を聞く為ではない。
 その赤ん坊の尻にある、揺らめく茶色の尾を見つけてフリーザは驚愕する。

「その赤ん坊、サイヤ人じゃないですか。どうして此処に?といいますか、兄さんはサイヤ人が僕より嫌いじゃ…」

 捲し立てる様に質問してフリーザは自分の迂闊さに気付いた。氷柱か雹でも降り注ぐような冷たい視線が兄から向けられている事に、口と喉が固まった。
 だがいつもなら飛んでくるダイヤモンドダストも今は襲っては来ず、フリーザは窺うように兄を見る。ドドリアとザ―ボンも同じだ。
 長くそうしていれば、クゥラは興味もなさそうにポツリとこんな事を呟いた。

 聞けば辺境の星を侵略する前に、その星では有名な呪い師に聞いたところ「尾を持つ子を大事に育てれば永遠の繁栄が齎される」みたいなことを言われたと兄は応えた。
 フリーザは頬の筋肉を崩壊させるのを必死に我慢した。後ろの二人の部下など唖然として空いた口が塞がっていない。機甲戦隊達は笑いを堪えているのか口を懸命に噤んで吹き出させまいと震えている。
 フリーザに言わせればクゥラは氷の惑星よりもなお冷たく、冷酷無比、身内にすら容赦しない悪鬼の方が可愛く見えるほどの性格だ。
 そんな兄が粗暴で戦うしか能がないサイヤ人に、あろうことか情が移ったなどと、妖精は存在すると信じさせるよりも難しいほどクゥラの行動は異様だった。

「パ…、父上はこの事を御存じなのですか?」

 二人の親であるコルド大王からは、サイヤ人の壊滅を命じられていた。一部のサイヤ人を覗いてフリーザがべジータ星を破壊したからだ。その事はクゥラも知っている筈だ。それを知っていて尚、クゥラは赤ん坊を傍に置くのかと。
そんな弟の問い掛けに、兄は侮蔑的な目を何処かに向けて鼻で笑う。

「父上が、態々俺の所へ出向いて下さると思うか?」
「そう、ですよね。聞いた僕が馬鹿でした」

 いつもこの調子でクゥラはコルド大王を詰るのは日常茶飯事だ。
 コルド大王が息子であるクゥラに会いたがらないのは、親にでさえ痛烈なダメ出しを炸裂させるからだ。そんなことだからフリーザが代わりに駆り出されるのだが、それを言う事すら許されない。
 手を前に組んで、フリーザは慎重に問いかける。

「しかし、周りの部下達が納得するかどうか…」
「言っておくがお前がべジータ星を破壊する前、カカロットはアタックボールで既に星から離れていた。すぐ近くにいて、それに気付かないお前の尻拭いをしたのだ。有難く思え」
「それってつまり兄さんの気紛れで…」
「何か言ったか?」

 ひと睨みされ、フリーザは口を噤んでしまった。
 一族の中で最強の力を持つクゥラが王座に興味がないからコルドが生きているというぐらいにしか、兄には興味がなかった。

 その時、耳障りな泣き声が響いた。赤ん坊が泣いているのだ。誰かを呼ぶように泣くものだから、フリーザ達はどうすればいいのか分からない。
 クゥラが機甲戦隊へと目を向けると、そのひとりであるサウザーが動き出した。泣いてしまった赤ん坊を抱き上げると、慣れた手つきであやそうとする。
 煩わしさえ感じる金切り声に、けれどクゥラは目を細めるだけで何も言わない。
無論、サウザー達もだ。

 どうしてそこまでこの赤ん坊に拘るのかフリーザ達には理解できなかった。呪い師の言う事を信じるなど兄らしくなかったし、そもそもそんな生ぬるい生き方をしなかった筈だ。言えば、赤子などなんの感情も無く捻り潰すような。全てが異質な空間だ。

 しばらくサウザーが赤ん坊の背を撫で続けあやしていると、次第に愚図るのを止めた。ほ、とサウザー達に安堵の表情が現れる。それを見たドドリアとザ―ボンも戸惑い何も言い返せない。
 気を良くしたクゥラが思いもよらない優しい手付きで赤ん坊の頬を撫で上げる様を、フリーザは愕然と見るしかない。
 氷の様に冷たく温もりの存在しない筈の指先が赤ん坊の頬に触れると、赤ん坊は瞼を開いて視界にクゥラを映すと、先程の泣き声は何処へやら、声を上げて上機嫌に笑ったではないか。



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