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赤い糸

 
 
 バージルがデビルメイクライに帰るとダンテが上機嫌で指輪を眺めていた。アンティーク風の指輪はどうみてもダンテの趣味ではなく、バージルは疑問に思いながら聞いた。
「自分で買ったのか?」
「違うぜ」
 ダンテが指輪を眺めたまま言う。ニヤニヤと何がそんなに嬉しいのか見ているバージルは気味悪がった。
「こんな指輪いるかー! って投げられた」
「最近お前が執心中の女か」
「あぁ。素直じゃなくてすんげー、かわいいんだ」
 Babyからのプレゼントだ。と無邪気に笑うダンテだがただ厄介払いされたか、本当に嫌いで投げられたようにしか見えない。
 少し不憫に思いながらダンテと投げられた指輪を眺めていると、バージルの視線に気がついたダンテが慌てて釘をさす。
「あげないからな」
 そんなこたぁ、思っちゃいねぇよ。とバージルは思う。
「でも俺の幸せをお裾分けしてやるよ」
「何の話だ」
 ほら、貸してやるから嵌めてみろよ。と指輪を投げられた。バージルは片手で指輪を掴む。近くでまじまじと見ると思ったよりも年季があり、細かい装飾が施されていることに気づく。作らせた人はなかなか趣味が良いのだろう。そしてその指輪を選んだダンテのBabyとやらの趣味も。
 バージルは思わず感心した。
「あげないからな」
 そんなバージルの気持ちを読み取ったのか、やはり先にダンテが釘をさす。
 そんなこたぁ……、とまで考えたところで思考を止める。返事をするのも面倒だからだ。
「これを嵌めると何か効果があるのか?」
「人生が変わるぜ」

 ダンテの言葉にバージルは瞳を細める。この愚弟が、相変わらず訳のわからないことを。そんな思いを込めてダンテに視線を向けるとバージルが何かを口にする前に話し出す。
「いいから嵌めてみろよ。世界が変わるぞ」

 まるで何かの呪文のようだった。それでいていやに信憑性がある。
 フンとバージルは鼻で笑い一気に指輪を指に通す。ダンテのやけに説得力がある説明もダンテのいう通りに指輪を嵌めればわかるだろう。そして、そんなものはなかった。と否定することが出来る。
 そんな思いで指輪を嵌めてみたのだ。

「なんだこれは」
 いきなり目の前に現れた糸に驚愕するバージルにダンテは笑いながら告げた。


 それが赤い糸なのだと。
 
 
「赤い糸だと?」
「あぁ、あの伝説の赤い糸だ」
「これがか?」
 小指に結んである糸を掴みバージルは唸った。思ったよりも地味なその糸は強くひっぱれば切れてしまいそうだ。そして細い。
 こんな物なんだろうとバージルは思い直し、指から指輪を引き抜く。
 外すと今まで存在していた糸が消える。一体どうなっているのだろうと関心する。
 ポイと投げ返すとダンテはつまんなそうに唇を尖らせた。
「何だよ、赤い糸の相手を見に行かないのかよ」
「必要ない」
 女に現を抜かしている場合ではないと付け加える。それに、
「お前みたいになるんだろう?」
 運命の相手とやらにデレデレで指輪を投げつけられようが、睨まれようが無視をされようが顔を合わせた瞬間に顔をしかめられても、素直じゃないとすませるなんて相当である。
 元々ダンテは女に不足していない。見た目が女受けするのかどうかは知らないが、女には人気あるのだ。 そのためか脈が無い女をいつまでも追いかけるなんて考えられなかった。しかもあんなに派手だった女遊びもしなくなった。
 早い話が恋って怖ェという事である。

「ふーん、ま、いいけどさ」
 じゃあBabyに会いに行ってくる、と腰を上げるダンテ。
「場所は分かるのか?」
 バージルの尤もな質問にニンマリとダンテは笑う。
「コレが連れてってくれる」
 指輪を嵌め赤い糸を持ち上げたダンテが言う。ダンテに付きまとわれている女もこんな風に指輪を活用されると知っていれば、コイツに投げなかっただろうに。きっと本当に厄介払いをするために指輪を手元から遠ざけたはずだ。
 そう思うとその女が気の毒になった。きっと後悔するだろう。
 
 所詮は他人だがな。バージルの思考はそれで締めくくられた。
 
 



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