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Be changed



「好きな女ができた」
 そう言われたダンテは一時思考が停止した。ダンテはいつものようにデスクに足を乗せるような形で本を読んでいた。そこに双子の兄が現れ目の前のソファに座った。ダンテは玄関口に体が向いているし、バージルが座っているソファはダンテの体から直角に置いてあるため自然と視線はぶつからなかった。
 一瞬ぽかんと目を瞬かせたものの、何とか思考を働かせ今の台詞をかみ砕く。
 
 バージルに好きな女ができた……?

「へー」
 それは限りなくどうでもいい情報だった。
 別にアンタの色恋話になんて興味ねえよ。そう思いながら雑誌に目を戻す。
 と、そこでバージルの顔がこちらに向いたのが分かった。
「好きな女ができたんだ」
「さっきも聞いたよ」
 だからなんだよと思いながら話を聞いていた。その時だった。ひゅん、と何かが自分の顔の横を通り過ぎる。それは物凄い速さで自分の頬をかすった挙句に後ろの壁に突き刺さったのだ。
 
 いきなりの武力行使に驚きながら、慌ててバージルを見た。リべリオンはバージルの後ろの壁に掛かっている。幸いエボニー、アイボリーは手元にあるがバージル相手となると心もとない。
 相手は全力でやりあっても負けるかもしれない男なのだ。ダンテはどんな些細な動きにも気づけるように意識を凝らし、身構える。ツ、と汗が背中を伝ったのが分かった。

「好きな女ができた」
「……そうかよ」
 一体なにが言いたいのかと身構えながらダンテは答えた。
 しかし、考えても全く見当がつかない。そもそもこの手の話は今の状況に相応しくない。それなのにこの話を続行するとは。一体どんな意味があるんだ。ダンテはますます警戒心を強めた。
 そこで一抹の可能性が浮かんだ。限りなく低い可能性だ。バージルの性格を考えるならこれはないだろう。いや、しかし。
 戸惑うダンテにバージルがその可能性を決定づける台詞をはいた。
 
 
「好みなんだ」
「…………」
 
 
 やっぱりかよーーーー!!
 まさか本当に話を聞いてもらいたいとか相談に乗って欲しいとかいう意味じゃあないよな!?
 今度は違う意味で汗をかきながらじっとバージルを見据えた。相手もこちらの様子を窺っている。やはり漂う空気は緊迫感を含んだもので、到底そんな意味を孕んでいるとは考えにくい。ってか、そんな今にも人を殺しそうな顔でそんな場違いなカミングアウトができるなっ!
 どうすればいいのかと緊張感よりも戸惑いの方が大きくなってきたころバージルが閻魔刀を取り出した。
 
「俺の話しを聞きたいだろう?」
 
 いや、別に。そんなことを思ったが確実に殺し合いが始まるのが目に見える。アイツはヤル気だ。
 
「ああ。すっげー気になるよ」
 こんなくだらない事で体力を削りたくないし命も懸けたくない。この店も壊したくない。となればこう答えるしかないだろう。
 ダンテは最後の抵抗とばかりに、棒読みで答えてやった。
 しかしダンテの些細な攻撃はバージルに全く効かなかった。
 
 バージルの話しを纏めると気になる女がいるから手伝えというものだ。
 はっきりいってめっちゃメンドイ。しかし、目の前で真剣な表情で話しているバージルにそんなことを言えば殺し合いになるだろう。
 仕方ねえな。ちゃっちゃと助言して、さっさとくっ付いてもらうか!
 
 
 という訳で、ダンテの恋愛相談教室が始まったのである。
 
 
「やっぱアレだろ。自分の長所で攻めるしかないだろ」
 ダンテは初歩的な戦法を出した。けっこう投げやりな感じがするが、気のせいのはずだ。
「……長所」
「ああ、長所」
 
 
 まあ、顔とか顔とか顔とか顔とか、顔とか?
 ダンテにはそのぐらいしか思いつかなかった。女の視点で考えればもっとまともな意見を出ただろうが、ダンテは身内である。あまりにも近い存在なのでこんなものしか出てこなかったのである。ちなみにバージルとダンテは双子なのでこの考えは自画自賛になる。
 
「分かった」
 そう言ってバージルは立ち上がった。そして玄関に向かった。その手には閻魔刀を持って。
「おいおいおいおいおいおい! どんな物騒なモン持ってどこに行くつもりだよ? まさかそんな装備で女を口説きに行くんじゃないよな!?」
 思わず慌てるダンテに飄々とバージルは返事を返す。
「名無しに悪魔をけしかけてくる」
 へえ、名前は名無しっていうのか……、ってそうじゃなくて!
「落ち着け! なんでいきなりそうなるんだよ!」
「俺の長所はこの力だ」
 ぐっと閻魔刀を持っていない方の手を握り締める。
「まあ、そうだよな」

「だから適当な悪魔をけしかけて、襲われているところを颯爽と現れて助ける」
 
「いやいやいやいや! そんな酷い事すんなよ! 大体そんなことしたらトラウマになっちゃうだろ!」
「PTSDか」
「いや、そんな専門用語いらねえから! なにそんな得意げな顔してんの! うわ、すっげえ腹立つ」
 
 
 とりあえずその作戦はなしだ!
 
 ダンテの必死の説得で悪魔をけしかける作戦はなくなった。
「そんな心配しなくても、俺なら上手くやる」
「誰もそんな心配してねえよ! 俺は名無しの心配をしてんだよ」
「名無しの心配も不要だ。俺が守る」
「だからけしかける云々の心配はしてねえって! 名無しの心の心配をしてんの!」
「名無しの心も俺が守る」
「お前じゃ無理だ!」
 
 けしかける側の奴が何を偉そうに。悪魔に襲われる時点でもう心は守れねえんだって。
 ダンテは大きくため息をついた。なんだかどっと疲れた。もう何でもいいから早く告白してもらおう。断られたのならそれはそれで仕方がない。
 あぁ、そういえば今日はラジオで恋愛相談の番組があったっけ。もうバージルに本気で付き合うのが疲れたダンテは、ラジオに手を伸ばした。
 
 ──おれ、戦うのには自信があります。一生守ります。だから付き合って下さい!
 ラジオの電源を入れるとチャンネルを変えることもなくこんな台詞が聞こえてきた。丁度いいじゃないかとダンテは手を降ろした。この告白を参考にして貰おう。
 ──あと、食べる、のが得意です!
(ん?)
 ──それと、子作りもっ!
(んん?)
 ──宇宙人と交信するのも得意です! いまからやってみます!
 
 そこでブチリと電源を切った。
 なんだ、今のは。全く参考にならない。こんな告白をするのなら、悪魔をけしかけて助ける方がまだ見込みがある。
 チラリとバージルに視線を向ける。眉間にしわを寄せていた。この辺りはまともな感性を持っていたらしく、参考にするつもりはないようである。
 余談になるがさっきのアレは番組違いで、本当はまともな恋愛教室を放送していた。
 
「バージルならどう告白する?」
 やっと本題とばかりに切り出した。
 バージルは少し考える素振りをし口を開いた。
 
 
 
「結婚するか、死ぬか、選べ」
 ──アレ、告白じゃなくてプロポーズ?
 ダンテにはもう何からツッコんでいいのか分からなかった。
 
 ただ分かった事はそれは脅迫だという事と、どう足掻いても名無しにとっては絶望だという事である。
 
 ふう。と大きくため息を吐き、ダンテはぽんとバージルの肩を叩く。

「完璧だ」
 もうそれでいいよと思ったのは内緒である。
 
 後日談だがうまくいったようである。




fin


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