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あ、のみこまれた



 名無しは愕然とした。
 隣には銀髪の男が寝ている。銀髪の知り合いなんてそうそういるものではなく、男の顔には見覚えがあった。ダンテである。
 赤い糸騒動から愛の言葉を囁きながら付きまとってくる男である。真っ直ぐに自分を見つめ好きだと伝えてくる姿には正直ぐらつくものがあるが、以前のダンテの交友関係を見ていれば信じられるものではない。
 そんな理由から名無しはダンテの告白を流していた。
 ──なのに、なのにっ!

 なんでアンタが横にいるんだ!
 それも裸でっ!
 ヤっちゃったの!? 致しちゃったのかっ!?

 思わず発狂しそうな勢いで己の髪を掻き乱した。
 取りあえずベッドから降りよう。そして身の回りを整えて部屋から出よう。
 そろりとベッドから足を下ろした時、後ろから動く気配がした。ゆっくりと振り返ればダンテがもぞもぞと動いている。そして顔を布団から出して笑いかける。

「おはよう」
「あ、おは、おはようございます」
 思わずどもってしまった。
 ダンテに気にした様子はなく、腕を伸ばしてくる。指先が名無しの頬を撫ぜる。白くてしかし角張り男らしい指である。それでいて長く爪の形まで整っている。
 何度か撫でたあと手は頭に回り引き寄せられた。力強く抱き寄せられたはずなのに優しく横たわらせられた。
 グッと距離が近くなる。掘りが深く整っていて澄んだアイスブルーの瞳。名無しは男の顔に魅にいった。あまりにも完璧すぎて。
 顔が寄せられた。キスをするつもりらしい。唇の形まで整い過ぎだ。
 ──と、そこで言葉を発した。

「──ダンテ」
 名無しの言葉で男が閉じかけた瞳を開く。どうした?と問い掛けるような目だ。だが名無しと距離を離すつもりはないようだ。
「──の、お兄さん?」
「は?」
 名無しの台詞に素っ頓狂な声を出すダンテの兄(予定)。
 今まで近かった顔を離し体を起こす。

「ダンテにお兄さんが居たなんて知らなかった」

 ぶっちゃけダンテより好みだと、これは心の中で。
 ポツリと呟けば今度は男の眉が寄せられた。

「アンタどうしたんだ?」
 怪訝そうに問い掛ける男を尻目に名無しは状況を確認しようと視線を漂わせた。どんな理由があるにしてもこの状況は無いだろうと思ったからだ。
 キョロキョロと辺りを見回す名無しの目にあるものが飛び込んできた。そしてやはり愕然とした。

「──っ!?」
 目に映ったのはカレンダーで、しかもただのカレンダーではない。
 なんと未来の物だった。焦る頭で計算をすれば大体6年後ぐらいだ。
 名無しはふらりと倒れそうになる。しかし何とか耐えた。次にダンテの兄らしき男に顔を向けた。
 イケメンだった!
 ──って、イヤ、そういう場合じゃない!
 まじまじと見る。ダンテより大人っぽいが6年後ぐらいだと思えば納得がつく。
 ダンテだ。

「ダンテ?」
「大丈夫か名無し」
 よくよく聞けば名無しの呼び方がダンテと同じだった。
 そして名無しは叫んだ。
「わああああああああ」
 なんで未来なんかに。どうやって来たんだ?!
 次にダンテと自分を見比べた。2人とも裸だった。
「いやああああああああああ!」
 どうやらダンテの態度といい未来の自分たちはこういう関係らしい。
 
 
 
 という訳で、
「別れて下さい」
 あれから叫んでダンテと話し合った結果こうなった。鏡で確認すれば若干老けた……大人びた自分が映り、よく分からないがそういう事だとぐちゃぐちゃの頭で思った。
「いやだ」
 若干唇を尖らせダンテが答える。本当にそういう関係らしく未来の名無しはデビルメイクライにて同棲しているらしかった。なぜダンテとそんな風になったのかは今の名無しには分からない。
「ようやく口説いたんだぜ。別れたくない」
 こうして拗ねたような表情は今も昔も変わらないようだった。
 共通点になんとなくホッとする。こんな訳の分からない事になって本当は怖かったし寂しかったのは事実だ。
 だからこそ名無しが強く言えばダンテが了承してくれるのだと思っていた。ダンテはいつもニコニコしながら名無し名無しと追いかけてきてくれたから。
「はい。話はおしまい。これで解散!」
 パンパンと手を鳴らして立ち上がろうとする。しかしダンテによって阻まれた。

「名無し以外の女と浮気してないし」
 それは優しく諌めるような声だった。声と同じく優しく腕を掴まれる。だが力強く逃げられない。
「名無しに嫌われるような事をした覚えもない」
 今まで拗ねるような表情が一変し、年相応の落ち着いた顔つきになる。
「愛情が薄れたのか?」
「薄れたとかそういう事じゃなくて、私には愛情の記憶が」
 ない。しどろもどろになりながら言おうとすればダンテがそれに被せるように言葉を紡ぐ。
「だったら思い出すまでここに居ればいい」
 のみ込まれる。直感的にそう思った。
 腕はもう掴まれていない。捕んでいるのはダンテの言葉と瞳だけ。
 最後の足掻きとばかりに言葉を発する。
「だったら距離を置こう! そうしよう!」
「嫌だ」
 今度ははっきりとした意思表示だった。さっきまでの拗ねた声色はない。だめだ逃げられない。
「アンタとは別れない」
 ゆっくりと体を寄せられる。体どころか顔が──。ダンテが何をしたいのか分かった。
 真っ直ぐなアイスブルーに射すくめられた。
 あ、のみこまれた。
 名無しが目を閉じたからか、ダンテがくつりと笑ったのが分かった。
「愛してる」
 次の瞬間唇が重ねられた。
 もしかしたら拗ねたような表情も真剣な表情もこうなることが判っていてやっているのかもしれない。だとしたら、なんて──
「んっ、」
 軽く啄まれる。名無しの反応に気をよくしたダンテが更に深く求めてくる。
 
 ヤバい。この押しの強さ。
 ──すっごく、すき。

 
 
 
 
 名無しがダンテにすがりつこうと腕を伸ばした時、目が覚めた。
 目が覚めたというのは本当に目が覚めたのだ。
 ここは自分の布団で、もちろんカレンダーはいつも通りで。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
 恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
 まさかあんな夢を見るなんて!

 でも、
「イケメンだった」
 顔も声も変わる表情も、全部、全部。
「ま、マジですか」
 なんと自分で思っている以上にダンテに惹かれているらしかった。
 いや、違う。
 のみこまれてしまった。

「あぁぁぁぁぁぁ」
 その日名無しはうなだれながらも、ダンテのデートの誘いに「Yes」と返事をした。
 驚いたようなダンテも魅力的だった。

 ああ、本当に赤い糸通りになってしまった!
 
 
 
fin

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