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「名無し呪われてるのかもよ?」
 道端を歩けば何もない所でこける。それどころか変な人には声掛けられるは、階段から転び落ちそうになるは、財布を落としてレストランから出るに出られなくて友達にお金を借りるはで私の日常は災難だった。
 些細な事からどうしようもなく大きな問題に直面する私は、あまり幸せな生活を送っているとは言いづらい。むしろ毎日のように何らかのハプニングが起こる私は不幸である。これは自信を持って言えた。
 不幸だ不幸だとは思っていたが、友達の一言は私の胸に響いた。もちろん悪い方の意味でだが。

「の、呪われてなんかないもん。こんなに普通に真っ当に生きてるんだから、呪われる意味が判らない」
 必死で言い返せば、友達が呆れたように言葉を発した。
「当たり前でしょ。本気で言ってんじゃないんだから真に受けないでよ」
 なんだよ。だったら言うなよ。
 ホッと胸をなで下ろし、食べかけのパスタを口に運ぶ。
 さっきまでそんな会話をしていたからか、まるで砂を食べているような感覚で全く美味しく感じなかった。
 だがしかし、

「本当に呪われてるのかも……。呪いじゃなくても何か変なのが憑いてるんじゃ……」
「悪魔とか?」
「そう。悪魔とか」
 楽しそうに返事を返す友達に名無しはがっくりとうなだれた。
 毎日のように不幸続きなのに更に男運も悪いなんて。本当に悪魔にでも憑りつかれているのではないかと心配になる。
 先日、色々あって「赤い糸」で運命の相手がわかったのはいいのだが、相手がよろしくなかった。
 顔は整っていて体は引き締まっている。はっきり言ってしまうと名無しのタイプである。しかし、あくまでもタイプなだけであって、日常に平凡さを求めて生活している名無しにとってダンテは目立ちすぎた。
 その整いすぎた見た目だけでも付き合えば女性関係で悩む事がわかっているのに、本当にその辺りの事情がゆるゆるなのだ。
「ゆるゆるもゆるゆる。ゆっるゆるよ!」
 いつの間にか拳を強く握り、友達に力説をする名無し。
 そんな男に一目惚れがどうとかで告白された挙句に、断った今でもふらりと現れては名無しにちょっかいを出しに来る。
 本当に男運に恵まれていない。

「私にはゆるゆるな男には見えないけど」
 カチカチといつの間にか食事を終えた友達が携帯を弄っている。何かの連絡でもメールで来たのだろうと名無しは気に留めなかった。そんなことよりもダンテのゆるゆる話の方が大事である。
「はぁー!? あの人のどこがゆるゆるじゃ無いっていうのよ。見た目も中身もゆるゆるなんだから!」
「そう? 名無しが言う程最低な男じゃないと思うけど」
「見たこともないからそんな事が言えるんだよ」
「あるよ」
「はぇ?」

「ダンテさんでしょ? 会った事あるよ」



 ………なんですと。
 友達の爆弾発言に石化する名無しに相変わらず携帯を弄っている友達が、顔も上げずに続けた。

「この間、名無しの友達だろって声掛けられたの」
「はぁーー!? ちょ、んでなんて答えたの!?」
「はい、そうですって答えたよ」
「えぇーー!」
「……友達じゃないの? 私たち」
「友達だよ。友達だけども!」
「で、話しているうちに仲良くなって、今じゃメル友」
「今誰にメール打ってるのーーーー!?」

 がばりと勢いよく友達から携帯電話をひったくった名無しは慌てて画面を覗き込む。すでに「送信完了」の文字が表示されていた。


「名無しが悪魔に憑りつかれてるかも、って話をしていたらダンテさん心配していたよ」
 のんびりと話し続ける友達の肩を掴み真剣な顔をした名無しが尋ねる。
「ちょ、ちょっと待って。やっぱり今までメールしてたのはダンテ?」
「うん」
「い、いつから?」
「一か月位前から」
 それって赤い糸事件のすぐ後からじゃないですか。
 ていうか、だから最近ダンテと遭遇する確率が高かったのかーー!
 唖然とする名無しの手からするりと携帯が抜け落ちる。テーブルにぶつかる前に、サッと友達が携帯を掴み自然な動作で自分の鞄にしまった。

「ダンテさんって恰好良いよね。ダンテさんみたいな人って目の保養のためにも大事だと思うの」
「はぁ」
「だからね名無し、私応援してるね」
「はああーーー!?」
 ちょっと待って。なんで目の保養になると応援するようになるの?
 応援なんてしなくていいから。私の意見を大事にしようよ。
 名無しは友達の肩を掴み今度はゆさゆさと前後に振った。でも、という呟きが友人から聞こえ名無しの動きが止まる。

「でも、私恰好良い人の味方だから」

 その一言により名無しの体が石化を通りぬかし、灰となってサラサラと崩れていった。そんな名無しの事をあまり気にしていない友人が携帯を取り出す。どうやら、先ほどのメールの返信がきたようだ。



「ダンテさんがね、悪魔の事で名無しが心配だから会いに来るって」



 了解です。そう呟きながらメールを打つ友人の声は灰となった名無しの耳には入らなかった。



 



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