「ダンテなんて大っ嫌い」
突き放すように言ってやれば、ダンテが驚いたように目を瞬かせた。
ピザを口にくわえた状態で微動だににせず、傷付いたように僅かばかり眉間を寄せた。
「ダンテなんて愛してない。最初っから嫌いだった」
もう一度、思った事を口にし言葉として発すればダンテは何かに気づいたように、今までくわえていたピザを咀嚼し飲み込んだ。
さっきまでの傷付いた顔は一変し、笑いながら私に声を掛ける。
「エイプリルフールなら昨日だぜ」
「……あ」
それは誤算だった。まさか昨日がエイプリルフールだったなんて。
今度は名無しが驚く番だった。せっかく真剣な表情で声を冷たくして言ったのに、何の効果もなくなってしまった。
そんな名無しを見て満足したダンテが笑う。いつもの人懐っこい笑顔がこの時ばかりは憎たらしく思えた。
「ダーリンにそんな事言うなんて、イケないハニーだな」
「本当だね」
いつものように軽口を叩くダンテに名無しは返事をする。
この軽口を聞き流していたらいつの間にか彼女になっていた。名無しは心の中で小さくごちりながら、ダンテを見つめた。
彼氏にこんな事を言うだなんて彼女失格だ。そもそも了承した覚えがなく、あれよこれよと彼女認定されて今では公認の中である。
まぁ、それでも構わないんだけどね。
「エイプリルフールかぁ」
「あぁ、昨日な」
「気付かなかったよ」
昨日だったなんて。そう呟けばダンテが相変わらず抜けてるなと微笑んだ。
その恋人に向けるような柔らかい微笑みが今は気に入らなくて、買い物に行ってくるとデビルメイクライを出た。
名無しはダンテの微笑みが苦手だった。柔らかな笑みが本当に愛されているのだと思わせてくれる。笑みだけではなくダンテは名無しの事を大事にしてくれた。
だからこそ嫌だったのだ。
「エイプリルフールかぁ」
さっきと同じ台詞を繰り返す。
いつになったらダンテは気付くのだろう。私が本当に、そうだという事に。
名無しの問いかけに答える者は居なかった。
嘘に乗せた本当を。
「エイプリルフールだったなんて知らなかったよ」
fin
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