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赤い糸



 まじない屋で名無しはある指輪を眺めていた。「赤い糸が見える!」と目を惹くようなキャッチコピーがその指輪に付いていた。
 名無しはそういった類のものは信じていなかったが、その時だけは別だった。いかにも怪しげな店に置かれていた指輪は、それだけで信憑性を持っていたし、がアンティークのような年季がある見た目がますます信憑性を増させていた。

 名無しはチラリと値札に目をやった。高くもないその値段はいわゆるお手頃価格で、例えキャッチコピー通りに赤い糸なる物が見えなくても仕方がないと納得できてしまうものだった。
 もう一度、指輪と値段を見比べ買うかどうか吟味する。名無しは少し考えると指輪を手に取りレジへ向かった。
 お買い上げだった。


 家に着くまでの帰路でたった今買った商品を包装紙から取り出し、改めてマジマジと眺める。
 うん、なかなかいいんじゃないの。その指輪が持っている効果はともかく、見た目は気に入った。名無しは良い買い物をしたと口元を緩める。 そしてしばらく眺めた後に指にはめて見る。その瞬間、指輪をはめた方の名無しの小指に真っ赤な糸が巻きついた。
 いや巻きついたのではない。急にその赤い糸は存在を主張したのだ。まるで今までずっと巻かれていたように名無しの小指に結ばれている。

 え……。うそでしょ。
 パチパチと何度も瞬きをして確かめて見るが、何度見ても赤い糸は存在していた。
 真っ赤な糸だった。毒々しい程の鮮やかな糸だった。なんとなく血液の鮮やかさに似ている。
 それが尚更名無しに先ほどのキャッチコピーを思い出させた。

 「運命の相手が分かる」       
 単純だが目を惹くキャッチコピー。名無しはその辺はあまり期待していなかった。まさか本当に見えるとは。
 その途端に赤い糸が誰に繋がっているのか気になった。自分の運命の相手。もう出会っているのか、それともこれから出会う相手なのか。どちらでも良かった。名無しは自分の赤い糸の向かっている方角を確かめ歩き出した。

 まるでご都合主義のように赤い糸は名無しにしか見えなかった。これほど存在を主張するような赤い糸が地面をずっと伝っているのに、すれ違う人たちはまるで気にも留めていない。
 逆に名無しには自分の赤い糸しか見えない。他人の赤い糸まで見えるのではないかと危惧していたが、それはなかった。
 どうやら指輪をはめている本人の運命の相手しか見えないようだ。


 いつまで歩いてもたどり着かないので、半ば作業をしているかのように名無しは糸を辿る。
 角を曲がって通りに出てまた路地に入る。そろそろ面倒だなと思っていた頃にようやく終わりが見えた。
 永遠に続くのではないかと思っていた糸が、ある人物の小指に結ばれ終わっていた。

 うそでしょ……?
 名無しは思わず口に出してしまった。相手には聞こえていなかったようで、その人物はこっちに全く興味を示さない。
 まぁ、それはいい。問題なのはその後だ。私の運命の相手というのは、どうやら最近この辺に引っ越してきたらしいデビルハンターだ。容姿も目立つが何よりデビルハンターとしての実力がずば抜けて高いらしくすぐに有名になった。
 名無しも名前は聞いた事があるが、正直関わらないだろうと気にしていなかった。
 彼の事は嫌いではないがもっと平凡な人が良かった。
 名無しは小さく呟き、次に心の中でツッコんだ。

 ……ってか彼女がいるじゃん! ダンテの横には女性が立っていてなかなか仲睦まじそうだ。いよいよこれはない。略奪愛なんて疲れるし面倒くさい。何よりダンテに対して特別な感情は抱いていないのだから、さっぱり夢だったと忘れてしまおう。
 ぼんやり考えていると相瀬はすんだのか、ダンテの彼女が立ち去った。
 じゃあ私も帰ろう。そう思いダンテに背を向けようとすると、さっきとは違う女性がダンテに声をかける。そして抱擁。

 ……は?
 目が点になる名無しと普通に抱きしめ返すダンテ。口元には笑みが浮かんでいて、嫌がっている訳ではないのだと分かる。
 え、さっきのは彼女じゃないの?
 顔をひきつらせていると、抱き合っていた女性が立ち去りまた新たな女性が現れる。今度は抱擁以上の事をし始めた。

 浮気ヤローだ! こんな男が私の運命の相手だったなんて信じられない!
 というより断固拒否する!

 名無しが憤りを感じていると、ここでようやくダンテと目があった。
 ダンテは名無しと目が合うと、上から下まで眺めだす。そして笑いかけてきた。
 もし今までの出来事がなければコロッと恋に落ちてしまいそうな笑顔だった。しかし今となってはもう遅い。 名無しの中で最低男のレッテルを貼られた今では、無邪気な笑顔も全く可愛くない。
 家に帰ったら赤い糸なんてちょん切ってやる。一生独身になるかもしれないとかそんなのしるか。絶対この男とだけは付き合うもんか!

 名無しはそう誓うと、微笑みかけられた事すら無視してダンテに背を向け帰路に着こうと歩き出す。
 思わず大股歩きになってしまったがこの際仕方がないと思う。


絶対に赤い糸なんて信じるもんか!    

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