ゾロ | ナノ


英雄、色を好む?

動揺したまま男部屋を飛び出たイオナが逃げ込んだのは、なぜだか食料庫。

バタンとドアを閉め、積み上げられた小麦粉の袋の影に身を潜めた。

『ゾロのエッチ!』

ルフィたちの突然の登場で、思わず叫んでしまった言葉。あのシチュエーションを見せつけた上で、そんなことを叫んでしまえば、完全に誤解をされてしまったことだろう。

神聖な海賊船の中で、「うっふ、あはは」な色欲にまみれた情事を─。

そこまで考えてた彼女は、顔を真っ赤にしながら自身の頭をポカポカと叩く。

あれは不可抗力だ。
抵抗できなかったんだもの。
私は、私は…

決して喜んでなんていっ、いない──

『エッチ』

そう、それは語弊ではない。

イオナは咄嗟に持ち出してしまった、エロティカルなランジェリーを手にふんふんと頷く。

ゾロはエッチなのだ。
じゃないとこんな下着なんて─

「そ、そうよ。これこそが、英雄、色を好む。なんだ!」

つい先日読んだばかりの《ことわざ辞典》に書かれていた言葉を、口にしてみる。

その説明には、『英雄は何事にも精力旺盛なので、女色を好む傾向も強い』と書かれていた。


ゾロは英雄ではなく剣士だけど。でも、あれだ。たぶん似たようなものだ。女色とは男と女の性交渉のこと。

つまりゾロは"交わりたがっている"んだ。

イオナは心底納得した。と同時に─

えっと、待って。冷静になれ。

あの時、強引に交わりたがってた?

ヤりたがってる…?
ってことは、ヤりたいだけ?

えっと、それって…

─この時、彼女は間違いだらけの推測上に存在する、まったく見当違いの核心に触れた。

「か、か、かっ、身体目当てってこと!?」

サッと自分の体を両腕で抱きしめ、全身に力を込める。普通の女性ならば、怒り出してしまいそうな勘違いではあるけれど、そうする気配は全くない。

そう。すでに彼女の脳内は推測というより、妄想に近い回答を導き出す手はずを整えており─。

だ、だ、だからあのとき、なにも答えてくれなかったんだ。そうだ!ヤりたいだけなのに、好きとかそんなこと言っちゃったから…。

だからあの時、ゾロは困ってんだ。

好意じゃなくて、"行為をしたがっている事"に気がついてあげるべきだったんだ!

求められてたのは身体よ。
私の身体なんだよ!

とんだ勘違いの中でイオナは再び赤面し、身体中の血液を脳へと上昇させ─

「って、私、勘違い女じゃない!?」

どこかまたピントのズレた突っ込みを、宙へとかました。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

そんな"とんでも"な妄想をイオナが働いているともつゆ知らず、ゾロは考えていた。

このままここで眠っていいのだろうか。と─

床に座り込み、賑やかな声をあげるメンツのことをチラリと盗みみたあと、ポツリと呟く。

「嫌な予感しかしねぇ。」

ここは男部屋のベッドの上。
女子禁制ではないにしろ─他にも誰かに見られる危険があるにも関わらず─彼女はすでに2度訪ねてきている。

そして2度ともアレだった。

ギリギリの攻防─。

あの瞬間に彼女が『あの贈り物』を持ち出してしまっているせいか、それとも二度あることは三度あるという古人の教えのせいか。

無意識にゾロは身構える。

イオナの目的がわからない以上、自分にはどうすることもできない。

強く頬を打たれるのはまだいいが、なんだか"とんでもない勘違い"をしたまま逃走を許してしまっていることについては"充分警戒すべき"対象だ。

なにより─

自分はまだ気持ちに答えやっていない。

様々な思いが交差する。

自分は確実に彼女を意識している。
ただそれは幾度とないやりとり故のことで、好意とは異なるもので…。

ではなぜ、彼女が泣くと胸が痛むのか。

組み敷く度に、鼓動が早くなるのか。

下心と好意の違いがハッキリとはわからず、ただ彼女を放っておけないという"曖昧な答え"ばかりが顔を出す。

『私もゾロのこと好きになってもいいよ。』

あの発言にはきっとなにか裏があるはずだ。

そんなことを考えながらも、今にも泣き出しそうに歪んだイオナの表情を思い出し、胸にずっしりとのし掛かる重みを感じた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

中途半端に自分の自意識過剰っぷりを受け止め羞恥心を覚えていたイオナだったが─しばらく悶絶の後、気を取り直していた。

「わ、私はどうすればいいの?」

電気をつけ忘れていたこともあり、窓から差し込む明かりしかない食料庫で一人コソコソと思考を凝らす。

ゾロはエッチなことを望んでいる。でも、あの反応からみて"恋人関係にはなりたくない"と思っているらしい。

さすがだ。
なんか本能に忠実でかっこいい。
いやいや、ゾロはいつでもかっこ…

って、ばか。話がズレてる!?

胸中で自分自身に突っ込みを入れながら、懸命に考える。無意識に頬が緩んでいるのはご愛敬だろう。

恋人にはなりたくない。でもセックスはしたいとゾロは考えている。

つまり、好意はない。

ということは─

「こちらの好意も一切告げなくていい?」

ポツリと呟いてみて彼女は気がついた。

あくまで序盤に掲示している推測から間違っているので、的確な答えなど出るわけがない。

それでも真面目に考え、導きだした答え。

だからこそ、それがどんな理不尽で矛盾だらけな結論だったとしても─何ら問題なくなは受け止められる。

「わ、わ、私は、ぞぞぞ、ゾロの期待に答えるべきなんだっ!」

両手で広げ持ったランジェリー。
これを身に付けて、今夜こそ"特攻すべきである"と彼女は自分勝手に決意した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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