ゾロ | ナノ


どうして。どうして…。

イオナは必死で考える。せっかく二人で町に出れたのに、ゾロはなんのちょっかいも出してこない。

それどころか、服の裾をさりげなく握ったイオナの手を、これまたさりげなく振り払ったのだ。

自分は嫌われるようなことをしただろうか。嫌がられるようなことを言っただろうか。いつの間にか、めんどくさい存在に成り下がってしまったのだろうか。

頭をフルに稼働して考えるが、これまでなんの接触もなかったのだからその可能性は低い。接触を避けていたこと自体に怒っているのならば、わざわざ誘ってはこないはずだ。

ならば、何故?

そこで嫌な考えが頭を過る。

まさか今日が最後とか?

あれだけ好き好き言われ続けてきただけに、突き放された時のダメージは相変わらず大きかった。

自然とイオナの歩幅は小さくなる。

以前も素っ気なくされたことがあること。その理由は決してマイナスなものではなかったこと。それをパニックに陥った彼女は思い出せなかった。

歩みの遅くなったイオナとゾロの距離は少しずつ開いていく。それに彼が気がつかない訳がなく、5メートルほど距離が開いたところで、ゾロは足を止めた。

どうしたんだよ。と言いたげに、彼が眉を潜める。その何気ない仕草すらも、今のイオナからすれば批判的な態度を取られたような気分になった。

どうしよう。怒らせてしまった…。

もともと彼女は人の顔色をうかがうような性格ではない。けれど、ゾロに対しては別だ。些細な変化が気になって仕方ない。

一歩一歩、彼に歩み寄る。
正面に立ち止まった時、すでにもう不安で泣いてしまいそうだった。

「ごめん…。」

「体調悪いならどっかで休むか?」

ゾロの問いかけに首を左右に大きく振る。そうしながら、触れてよ。なんで触れてくれないの。と胸中で繰り返す。そんな彼女を前にして、ゾロはいつもの通り、落ち着いていた。

「あぁー。なんとなくわかったわ。」

そう言って彼はイオナの腕を掴む。「ちょっと待って」と声をあげ、躊躇う彼女を引きずるようにして歩き始めた。

「どこに行くの?」

「観光より重要なとこ。」

「なにそれ…」

「黙ってついてこいよ。」

掴まれた腕がジンジンと熱い。引っ張られるままに足を前後させながら、イオナはゾロのうなじをじっと見つめていた。

しばらくして到着したのは、宿泊施設だった。不安そうな顔をする彼女をよそに、ゾロはサクサクのチェックインを済ましてしまう。

「いい加減気づけよ。」

「何が…」

「デジャヴだろ。」

呆れたように笑うゾロを追いかけながら、同じ形の扉が並ぶ長い廊下を進む。一体なんのことだろうとと小首を傾げたイオナをみて、ゾロは更に眉を潜めた。

「タイムアウトな。」

「だから、なにが…ギャッ!」

立ち止まったかと思えば、その瞬間に部屋に引き込まれた。部屋のインテリアを眺める余裕などなく、視界は彼でいっぱいだ。

ドアに背を預けるようにして、イオナはその悪戯な瞳を見つめる。さっきまでフラれるかもしれないと不安になっていたのは嘘のようで、今ではその人に触れらることしか考えられない。

「いい加減、勝手に不安がるのやめろよ。」

「だって。」

「素っ気なくしたのは悪かった。けど、あれだろ…」

言葉の途中だというのに、ゾロはその薄い唇をイオナのそれに短く重ねる。そして、もの足りなさげに顔を寄せる彼女の唇をかわし、耳元でフワッと囁いた。

「外で止まんなくなったら困るのそっちだろ。」と。

「止まんなくなったらって…」

「開放的なのは悪かねぇが、好きな女を外で裸にすんのは躊躇うだろ。普通。」

「えっと、ちょっと意味が…」

「我慢の限界だったつってんだよ。」

掠れた声に全身がジンジンする。けれどそれに気を取られている余裕はなく、今度は荒々しく唇を奪われた。いつもよりずっと強引で、乱暴に舌が口内を弄ぶ。彼の首に腕を回すと、その勢いは更に増した。

「待って、息できない…」

「我慢しろ。」

「そんな…」

また深く唇が重なる。荒々しい口づけの最中に、彼の指はスカートの中に入り込む。強引にショーツのクロッチを横にずらすと、すでに熱くなった割れ目に触れた。

痛いくらい乱暴に蕾に触れる指の動きに、いつものような優しさは感じられない。ゾロ余裕の無さが伝わってきた。

待ちに待った刺激に膝がカクカクする。多少の痛みはあるものの、拒む理由はない。ギュッとしがみついたまま、与えられるがままにその快感を受け入れる。

波が打ち寄せるまでもう少し。イオナが身構えたタイミングで、ゾロが「もう無理だわ。」と洩らし、中から指を引き抜いた。

彼は指の第二関節まで伝った透明の雫をサッと舐めとると、自身の昂りを開放する。

普段なら、意地悪なことを二言三言口にしてイオナから催促の言葉を引き出す彼だが、今日は何も言わず彼女の左足を持ち上げると一気にそれを押し込んだ。

久しぶりに受け入れたそれの感覚にイオナは顔をしかめる。指でほぐされることもなければ、ゆっくりと慣らされることもなかった。

前回からだいぶ間隔が空いているからか、充分濡れていたにも関わらず痛い。それなのに、ゾロは力任せにガンガンと奥まで付いてくる。

痛い。確かに痛いのに、それを上回る刺激が、全身を貫く。甘い声は堪えられず、脳髄がグラグラした。

ゾロの荒い息づかいが、その乱暴さが、恋しい。ギュッと首にすがり付いたタイミングで彼が、苦しそうに息を詰めた。

身体の内側に吐き出された熱い体液。
彼の男根は太さをそのままに、それが漏れ出さないように栓となる。

「痛かったろ…」

「うん。」

「ごめんな。限界だった。」

申し訳なさそうに言う彼は、まるで先程までのその人とは別人みたいだ。いつも通り、愛しむようにギュッとしてくれる。

「すげぇやばかった。普通無理だっての。1ヶ月だぞ…」

「ゾロ?」

「俺がどんだけ堪えてたと思ってんだよ。物欲しげな顔されたらたまんなくなんだろ。」

一方的に捲し立てるみたいにゾロは言う。「もっと早く抱きたかった。」と。「優しくしてやりたかった」と。

「すげぇ抱きたくて、もうどこででも盛っちまいそうで、気が気じゃなかったわ。」

「よそで済ましたりしなかったの?」

「他の奴で我慢できんなら、最初からイオナに手ぇだしたりしねぇよ。」

ゾロは荒く息を吐きながら笑う。それに合わせて、繋がったままの腰をゆっくりと前後し始めた。

さっきよりも、ずっと優しい刺激が流れ込む。それでも快感は増していくのだから不思議だ。イオナは返事をする代わりに、躊躇いのない喘ぎ声を洩らす。

「さすがに今日はイライラしたわ。」

「ごめ…んっ、あぁ…」

「こんな好きなのになんで伝わってねぇんだよ。」

「ゾロ…、ダメッ。」

「言ったろ、あんま悩むなって…」

優しい言葉とは裏腹に腰の動きが速まった。鼓膜から彼の声はちゃんと聞こえている。脳にも届いている。それなのに、絶頂を迎えそびれてばかりの身体は、待ってはくれなかった。

「ダメッ。ゾロ、あぁ…」

目の奥がチカチカして、頭の中が真っ白になる。全身が芯から震えたような感覚した。

腰が抜けへたりこみそうになったのを、彼の大きな手のひらが阻止する。もうこれ以上にないくらいの快感に膝を震わすイオナの身体に、ゾロはまだ熱を注ぎ込む。

もう無理だ。やめてと声をあげたところで、力の入らない身体では抵抗のしようがない。

「ゾロ、ほんとに…」

「遠慮すんなよ。不安なんだろ?」

「違っ、あっ、ダメ!!!」

子宮に電流を流されたかと錯覚するほど強い刺激。痛いのか、気持ちいいのかもわからないその感覚に、イオナは悲鳴のような声をあげる。それに合わせてゾロが呻いた。

これ以上の刺激は耐えられない。それでも終わってほしくない。そんな矛盾の中でもがきながら、イオナは生理的な涙で頬を濡らす。

「泣くなよ。」

「泣いてなんか…」

そこまで口にしたところで、強く抱き締められる。痙攣したままの膣の中で再び吐き出された熱。ゾロのそれが抜けると、床にポテポテと白濁の液が滴った。
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一緒にお風呂に入るまではいい。泊まる訳でもないのに、どうして髪まで洗ってくれるのか。

先に身体を流したゾロは浴槽に。言われるがままに彼に背を向けるようにして椅子に座らされたイオナは、当たり前のように髪をワシャワシャされていた。

「そんなに俺が信頼できねぇかよ。」

「そんなんじゃないよ。」

「じゃあなんで…」

「その話はもういいでしょ。」

ゾロを信頼していないわけではない。自分に自信がないのだ。そんなことを口にしたところで、話は堂々巡りを繰り返すだろう。

「照れんなよ。」

「照れてない。」

「嘘付け。」

意地悪く笑った彼は、泡にまみれた指先で、乳頭をピンッと弾く。先程の情事から敏感になっている部分に触れられ、無意識のうちに口から「あっ」と声が漏れた。

「やらしい声出すなよ。勃つだろ。」

「じゃあ、触らない、で…」

「いや、無理だな。」

両の手でそれぞれの粒を転がされたかと思うと、脇の下に腕を差し込まれ立たされる。いやいやと抵抗しても、それはポーズでしかない。

イオナが腰を下ろしていた椅子を彼女の膝の前に動かした彼は、それに手をつくように促してくる。ヤダと言ったところで、足の間に指を入れられ、掻き回されるだけだ。

渋々従った彼女の突き出された尻をみてゾロは満足そうに笑う。

「すげぇいい眺め。」

「変態…」

「でも感じでんだろ?」

「最低。」

素っ気ない態度を取りながら、受け入れ、応じてしまうのだからどうしようもない。きっと何度見られても、そこを晒せと言われるのが屈辱的であることは変わらないだろう。

イオナは椅子の位置を戻すと、ペタンと腰を下ろした。

ゾロもまた、何事もなかったかのように再び彼女の髪をワシャワシャし始める。

「次はベッドの上でゆっくりやろうぜ。」

「好きにすればいいでしょ…」

「そんなにツンケンすんなよ。」

「変態。」

意地悪な物言いに反して、髪を洗うその指の動きはすごく優しい。だからこそ突き放せないし、突き放さない。

「痒いとこないか?」

「美容室じゃないんだから。」

「ないならそう言えよ。」

「ないから。早く流して。」

「いいからもうちょい洗わせろよ。」

楽しそうにゾロはワシャワシャし続ける。その優しい力加減が心地いい。

こうしてもらえるだけで充分だと思っているだなんて、絶対教えてやらない。さっき聞かせてもらった言葉だけで満足だなんて口にはしない。

ずっと不安だったせいか、何気ないことが嬉しくて仕方なかった。


END








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