ゾロ | ナノ


「どこで寝ても一緒だろ。我慢しろ。」

どうしてこの男はこうも自分勝手に話を進めてしまうのか。こっちにはこっちの都合があるってのに、どうして…

「我慢って、あのね…」

不満げな声をあげるイオナ。酷いことを言って、突き放してやろうかとも考えていたのだけれど──それは叶わなかった。

ゾロは舌打ちしながら上半身を起こした。かと思えば、そのまま隣に横たわる華奢な身体に跨がる。

瞬く間に組み敷かれてしまった。

イオナの心拍数は跳ね上がる。辛うじて腕は押さえられてはいないため、ドスドスとゾロの太ももやら胸板やら腕を叩いてみるが、全く効果はない。

「ちょっと、ちょっとやめて。」

顔が近づいてくる。またキスされるんだ。そう思った途端に、拳を降り下ろすのをやめ、瞼を堅く閉ざしたのだが。

「俺のこと意識してんのか?」

耳元で囁かれた台詞の、甘い響きに全身が硬直する。どうしてこんな状態でそんなことを言えるのか。

イオナは瞼を持ち上げ、抗議的な目を自分を組み敷く男へと向ける。

普通に考えれば、寝込みに添い寝された上に、突然組み敷かれなんてしたら─相手が誰であれ─抵抗するのは当たり前。

それでも相手がゾロで、投げ掛けられた言葉の内容がそこそこ図星であった為に、彼女は押し黙るしかなかった。

「してねぇなら、つべこべ言わねぇで黙ってじっとしてろ。」

一方的に勝手なことを言われているのに、なんで言い返せないのか。

あまりの悔しさに瞳の縁に涙を滲ませながらも、イオナは抗う姿勢を貫き続けたのだが──

「それともエロいことされてぇのか?」

──悪戯な熱い息が耳元を掠め脱力する。

やけに色っぽく囁くものだから、四肢の先までビリビリと痺れて、身体中の神経が強張り、焦げてしまそうなほどの熱が全身を迸(ほとばし)る。

瞼の縁に溜まっていた涙がこぼれ、頬をスルスルと伝う。

(ずるい。ゾロはズルすぎる!!!)

その涙の意味は、悔しさからくるものなのか。はたまた、羞恥心で沸き上がる熱を冷まそうと生理的に溢れたものなのか。

硬直したまま動かないイオナから降りたゾロは、再び彼女の隣に寝転がると満足げに華奢な身体を抱き寄せた。

俺のそばにいろ。

まるでそう言われているかのような感覚に、さらにイオナの本能的な部分が高揚感を覚える。

「………ッ。」

どんなに、悪態をつこうとしても声がでない。声帯を震わすことができない。

骨抜きにされてしまったも同然の彼女はただ、ゾロの心音のリズムを脳髄に刻みながら、その腕の中で浅い呼吸を繰り返すばかりだった。

(絶対に認めてやらない!)
(地球が割れたって、惚れてなんてやらないから!)

そんな無意味なことを考えながら。




to be continued


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