ゾロ | ナノ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ゾロの誕生日前日、23時。
イオナは闇の中を彷徨いていた。

『目をみておめでとうって言ってやれば、きっと大喜びすると思うけど?』

サンジの言葉が反響し続けたここ数日。

遠目でも視線が交わると卒倒しそうになるのに、目を見て会話なんて想像しただけで失神もの。

ただそれでゾロが喜んでくれるなら─

そこまで考えるも、やはり頭をブンブンと振って否定する。イオナにとってそれは自殺行為にも近い。ゾロの視線に射抜かれて死ねるのなら、本望ではあるが──それじゃあゾロが殺人犯に…

ゾロは海賊であり、あちこちで人をブッタ斬ってきているのだから今さら殺人なんてどうってことはないということを忘れ、イオナは悔しげに顔を歪ませる。

いっそゾロに殺してもらうことで『自分の存在』をプレゼントにしたいくらいなのだが、それが"迷惑に値する"ことくらいはさすがの彼女にも理解できた。

だからこそ、こうして夜更けに廊下を行ったり来たりしているわけで─。

この日、男部屋にいるのはサンジ以外。

サンジは真面目に見張りをしているだろうし、何故かはわからないがそんなサンジをナミが見張っているはずだ。

今の男部屋なら特攻しても問題はなく、むしろ"安易に受け入れてもらえる"環境だろう。

0時ちょうどにおめでとうを言おう。

そしてビンタを繰り出す前に、視線がかっちり噛み合う前に全力で逃げよう。

アイマスクしていれば対峙しての会話も可能だし、背中を向けたり壁越しだったり、調子が良ければ甲板の柵に並んで立っての会話も出来る。

今回は少し攻めて、ゾロが目を覚ました瞬間に声をかけ、そのまま踵を返して逃げることでなんちゃってリアル対話を演出する作戦。

チャンスは一瞬。
ほんと一瞬で全てが決まる。

擬似的に視線を交わらせることでゾロが喜んでくれるかは謎だが、これが自分としては限界なのでとにかくやってみるしかない。

結局、ドアの前、ベッドの側でモジモジしていた時間もあって、ゾロの前、ベッドの上に乗っかったのは0時になる15分前。

それでもずいぶん早めの登場なのだが、1時間近く前から廊下を彷徨いていたことを考えると遅いと言わざるを得ないだろう。

と、ゾロは胸中で苦笑する。

あちこちで「うぅっ」と小さく呻いたり、「あぁー。」と嘆いたりしていた声が聞こえていた。

普通の聴覚では聞き取れないレベルのそれでも、注意さえ払っていれば耳にはいる。

自信なさげな声と潜めた足音が遠ざかったり、近づいたりを繰り返すため心配していたのだが──なんとかここまでは来れたらしい。

安堵なのか気休めなのかわからない溜め息を着いたイオナを抱き寄せたい衝動にかられながも、寝たフリを決め込むゾロ。

こういうときにちょっかいを出してしまうと、今後彼女からの歩みよりがなくなってしまうことくらいは心得ていた。

「寝てるよね?」

瞼を閉ざしている時にしかマジマジと観察出来ない整った顔立ちを前に、イオナは口元をだらしなく緩める。昼寝の時もなるべく駆けつけるようにして見つめているが、昼間と夜では心持ちが違う。

深く刻まれた眉間のシワを人指し指で引き伸ばしてあげたい衝動をこらえながら、恍惚とした表情を浮かべ─。

周りに誰かがいれば、ドッと引いてしまうような節操なさげな笑みを浮かべた。

瞼を閉ざしているとはいえ、そういったイオナの"雰囲気の変化"には敏感なゾロは背筋を冷やす。

『なにかくる。』

そう理解したときにはすでに、その何かは始まっていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

まさかゾロが寝たふりをしてくれているとも知らず、布団に潜り込んだイオナはサービスに励んでいた。

着流しということもあり、あっさりと顔を出した男の部分に舌を這わせる。

ヨダレをジュルジュルとすすりながら、扇情的な舌使いでギンギンの"男"を刺激。びくりと身体を震わせば、肝を冷やしながら一度静止し、しばらくして再開。

寝ているのをいいことに、好き勝手にそれを弄んでいた。

「ゾロの…、やっぱりおっきい…」

普段はアイマスクのため、こうしてマジマジと観察するのは初めて。

膣内で感じた通りの"いままでにないサイズ感"の性器は、今にもはぜそうなほどにギンギンに反り勃っている。

口に含んだことはあったが、後頭部を押さえられてガンガンと突かれるタイプの通称イマラチオしか経験していなかったので、じっとりとフェラを楽しむのは初めてだった。

ゾロのゾロがかわいい…。

本来(当然ではあるが)ここまでする予定ではなかった。

ただ、深夜の寝顔を目にしてしまった時点で沸き上がるエッチな衝動をおさえられず気がつけばこうして愛(め)で始めてしまっていた。

まさかゾロが起きているとも知らず…

(やべぇ、出るだろ。ばか。)

身悶えしてしまいそうになるを、声を漏らしてしまうになるのを必死に堪え、仰向けに寝転がったままゾロは眉を寄せる。

ずいぶんといやらしい音を立てながら、丁寧に甘ったるくちゅぱちゅぱするイオナ。

誰に教えられたのか、彼女のプロかと勘違いしてしまうほどのテクニックに思わず昇天してしまいそう。

(やめろ、そこは…)

(おいっ、くそっ。ぁあ…)

吐き出すことの出来ない言葉が脳髄でジンジンと響く。自分のあえぎ声なんておぞましいものを脳天で反響させていても、それでも快感には抗えなかった。

「やめろっ、イクッ!」

思わず口をついた時には、先端から吹き出していた白濁の液。それは見事にイオナの前髪やら鼻の先、頬へと降りかかった。

ただ、彼女はそれに関してなんとも思っていないようだ。むしろそれより、ゾロが目を覚ましてしまっていたことに狼狽をみせる。

「あ、あの。ゾロ…これは…」

ドクドクと脈を打ち続け、いまだに元気のいい男の部分を握りしめたまま、精子を浴びた顔を真っ赤にする恋人。

エロさは半端ないが、とてつもなくよくない状況であることは理解していた。

ゾロは慌ててイオナから目を反らす。というより、持ち上げていた顔を倒し、ベッドの底板をみつめる。

こういうときに目が会うのは危険極まりない。なにより人質にとられているのは、男性として大事な部分。照れ隠しついでに踵落としなんてされたら大爆死である。

「ゾロ、イクの遅いから…。もうちょっと大丈夫かな?って、つい。違うの。私は遅いの好きだよ?むしろ、ずっと腰を振っててほしいっていうか…」

「落ち着け、イオナ。」

「あの。私、お誕生日…」

「わかってる。祝いに来てくれたんだろ。」

「うん。でも、ゾロが寝てるのを見たら、つい…。触りたくなってきて…。起きてたなら、声をかけてくれたら…」

「声かけたら悲鳴上げて逃げるだろ。」

「そんなことは、あるけど…」

かわいい。純粋にかわいい。

実際は眠っていなかったとはいえ、お目覚めフェラは全世界の男の憧れだろう。

射精後の足りない思考能力の中でそんなことを思いながら、ゾロはイオナの腕を掴む。

びくりと身を震わせた小さな身体をそのままベッドへと引き倒し、あっという間に組み敷いた。

イオナは顔を背け、必死になって瞼を閉ざす。男の欲望を浴びた上で、全身をカタカタと震わす様子は、純粋な少女が汚される過程をみているようでそそるものがある。

ただ彼女の場合、怯えている対象が『男性の欲望』といった未知数なものではなく、『ゾロのかっこよさ』という乗り越えるべき壁なのだが─。

「お誕生日おめでとう。ごめんなさい。もうやりませんから。ごめんなさい。お誕生日祝うの。だから、ごめんなさい…。アイマスクください。死んじゃう。ごめんなさい…」

安定の呪詛を唱え、涙で頬を濡らす。可愛くて仕方のないちょっと重症ぎみの電波な彼女。

「俺の誕生日、祝ってくれるんだろ?」

「だから、アイマスクを…」

「今日はなしで相手しろよ。目ぇ開けろとは言わねぇから、そのままでいてくれ。」

「でもゾロ?もし間違ってゾロを直視したらきっと死んじゃう…」

「死ぬかよ。」

どんだけ俺のことが好きなんだよ。

なんて野暮なことは言わないでおいた。いつになく恥ずかしそうにするイオナの唇に短く口づけると、細くしなやかな腕を持ち上げ、その脇に舌を這わせた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

冗談抜きで命の危機を感じながら、ガンガンと身体を突かれ、イオナは声を押し殺しながら喘ぎ続ける。

自分の手の甲を噛んで耐えていると「痛いだろ」と声をかけてくれ、身体がひっくり返された。

四つん這いなら枕に顔を埋められるし、間違って瞼を持ち上げても腰を振るゾロの表情を垣間見てしまう心配はない。

そう考え、ホッとしたのも束の間。

一気に身体を貫いた男根は子宮の奥を躊躇いなく突き立てる。上半身を持ち上げるように促されそれに従うと、背後から乳房を鷲掴まれる。

キスをせがまれ顔を反らした時、不覚にも目を開いてしまっていてゾロの艶っぽい横顔が視界に映り込み、卒倒しそうになった。

それと同時に、膣がキュッと締まったのは気のせいではないらしい。

ゾロは小さく呻くと、耳元で「今、イッたか?」と訪ねてきた。

なんだか新鮮だった。

いつもよりもノーマルで刺激の弱いことをしているのに、身体中の血が騒ぎ、熱が絶えずほとばしる。

ぼんやりとした意識の中で、ただ優しく甘いゾロの温もりにだけ浸り続け──甘すぎる堕落に身を溶かしていくだけ。

いつもよりゾロに集中できる。
いつもより充たされる。
いつもよりずっと温かい…。

「ゾロ、お誕生日、おめでとう…」

「ケツ突きだして言うことかよ。」

「ゾロ…」

「イオナ、ありがとな。」

優しく囁かれ、頭を撫でられる。優しい手に包み込まれる。どんなに声を押し殺したところ、ガンガンと揺れ響くベッドの音は防ぐことはできず。

このまま…と声をあげたかった終盤で、誤って結合部から抜けてしまう事案が発生したのは失笑ものだった。

「ゾロ…下手。」

「悪かったな。」

「でも、そういうダメなところもかっこいいし、大好きだから!」

「……バカか。」

向かい合って座った二人。

照れたように俯いたまま、どこまでも恥ずかしいことを口にするイオナ。

顔を見ないように必死なのが伝わってきて、それが可愛くて仕方ない。

「改めて、お誕生日おめでとう。」

「あぁ。ありがとな。」

「その……、うれしかった?」

「イオナがくれるもんなら、俺はなんだって嬉しいっての。」

「………ッ!!!」

ギュッと抱き寄せると感じるこの温もりは、痛みを与えて得る喜びよりずっと大きい。

「ゾロ…、気持ちよかったよ 。」

「ならよかった。」

イオナにも"痛みでは感じられない幸福感"を得てほしいと考えるゾロだった。

のだが。10分後。

「窒息寸前まで首を絞めてほしい。」

「は?」

「楽しそうに首を絞めてほしいの。」

「は?」

「目を開けてるゾロを間近で直視するにはその方法しかないと思うから…」

裸のまま背を向けたイオナは、弱々しい口調でそう口にする。

「いや待て。もし間違って死んじまったら俺は一体…」

「それでもいい。どうしてもゾロと顔を見合わせたいし、むしろ、ゾロに殺されたいくらいで…」

「わかった。わかったから、俺に殺されたいとか二度と言うな。死にたいとか、殺されたいとか、絶対に言うな!」

気がつけばゾロは背後から彼女の小さな身体を強く抱き締め、そう口にしてしまっていた。

そして。

裸の##NAME1##に己も裸のままで跨がり、細い首に指を絡ませる。力加減をしないと折れてしまいそうなそれがやけに愛しく、尊いもののように感じた。

「絞めるぞ?」

「お願い、します…」

イオナはいまだ瞼を閉ざしたまま。指に込める力を強めていくと 、苦しそうに顔を歪ませる。やめてしまいたいという思いと、この先をみてみたいという欲望が渦巻き、やはり不快感が押し寄せた。


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