眠りが浅かったせいか、短かったせいか。ゾロはウトウトしていた。
イオナの深い寝息を耳にしていたせいか、心地よくなりそのままコクンコクンと頭を揺らしていたのだ。
「アンタってさぁ、やっぱイオナのこと好きなんでしょ?」
そんな彼の背後から、先程とは打って変わっての軽い口調でナミが問う。
「んあ?って、いつのに…。」
ドアが開いたのにも気がつかなかった。
勢いよく振り向いて、あまりの顔の近さに椅子から飛びのいたゾロをみてナミは不適に笑う。
「認めちゃいなさいよ、どうせチューしちゃったんでしょ?」
「う、うるせぇ。」
先程まで自分が腰を下ろしていた椅子に、なんのためらいもなく座り短いスカートで足を組むクルーからゾロはパッと視線を反らす。
「なになに?アンタってそんなウブな男だったけ?筆下ろしもまだとか?」
「んな訳ねぇだろ!」
イオナが眠っている側で、大声をあげてしまう。そんな反応を楽しげにみつめるナミは完全なる魔女である。
理屈で攻めてもはぐらかされるなら、無理矢理認めさせてやろう。
ナミのそんな発想は、安易でありながら効果覿面であった。ゾロは一人狼狽を越える混濁状態へと陥っている。
「イオナだってたいした経験もないみたいだし、いいんじゃないの?一発ヤッちゃいなさいよ。」
「お、お前なぁ!」
アイツは俺の股間を踏みつけた上に、チンケだ、つったんだぞ!
思わずそう言いそうになり口を閉ざす。
そんなことを言ってしまえば、またなにか変な誤解を生んでしまうだろう。結局、なにも反論できず口を固く結んだままナミを睨み付けるに留まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遠くから声がする。
その声は荒々しくて、焦っていて、でも心地の良い響きで。
イオナは目を覚ました。
視界はぼんやりとしているけれど、匂いからそこが自分のベッドでないと気がついた。
頭がぼんやりするのは何故だろう。
身体が重たくて動かない。
どうしちゃったんだろう。
ゾロに助けてもらった瞬間の感動と、彼の背中の温もりを思い出し、逆上せ頭のまま布団に潜りこんだところまでは覚えている。
逆上せ頭。
それこそがすでに熱が上がり始めていたという兆候だったのだけど、彼女は恋の病のおかげで体調の変化を見逃していた。
結果、意識が朦朧とするまで一人でミノムシと化していた訳だが…
「おいナミ!お前もうちょっと品のいいこと言えねぇのかよ。」
はっきりと聞こえたゾロの声に、身がピクリと震える。
「品ねぇ。なら、一度試しに契りを交わされたらいかがでしょうか。ってのはどう?」
どう?ってナミなに言ってるの…。契りってそういうことだよね…。
「言ってることは変わってねぇだろーが。このアマ!ふざけんな!」
ゾロ…。怒ってる。どうして?
イオナはこめかみの辺りに感じるギュッと潰されるような痛みをこらえ、首をわずかに動かした。
まだぼんやりではあるが、それでもみえない距離ではない。
真っ赤な顔をしたゾロと、勝ち誇ったような笑みをみせるナミ。
二人は顔を見合わせている。声を出そうと口を開くも、乾いた喉が音を吸収してしまい、掠れた音しか生まなかった。
「そんなに真っ赤な顔しちゃって。やっぱり、あんた好きなんでしょ?あぁー。答えなくていいから。顔に書いてあるし。」
ゾロの好きな人の話?
途端、イオナの意識は鮮明となる。
「お前は関係ねぇっつてんだよ!」
挑発により、ゾロは声を荒げた。
その見てとれるほどの狼狽っぷりに驚き、大きく開いたイオナの様子に気がついたナミは彼女に向けて得意気にウインクしてみせた。
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