ゾロ | ナノ


ドアをそっと開けると、すぐにベッドが目にはいる。そこにひとつの膨らみをみつけ、すぐにそれがイオナだとわかった。

「おい、イオナ。」

声をかけベッドに歩み寄る。

少々身構えているのは、ビンタ回避かもしれないし、女子部屋に入っている後ろめたさかもしれない。

「おい、大丈夫か…?」

その体の一部、どこも布団からは出ておらず、真ん丸で、まるでミノムシのような─

「ん?」

近づいてみて気がついた。布団の上下するリズムが異常なほどに早いことに。

「おい、どうした?」

塊に手を伸ばし、一度引っ込める。もし元気だったなら、触った時点でビンタ決定ではないか。

「なぁ、イオナ?」

何度か名前を呼んでみても反応はなく、布団は浅く上下するばかり。ゾロは意を決して、布団をバッとめくってみた。

彼女の様子に絶句する。

顔色は青白く、額には汗をベットリとかいており、前髪が張り付いている。

案の定、呼吸は浅く反応もない。

「おい、イオナ。返事しろ、おい!」

肩に手を触れると服越しにも、わかるほどに身体が熱い。

「大丈夫か?イオナ!」

強く揺さぶっても反応はない。このままではラチが明かないと、咄嗟にイオナを抱えゾロは部屋を飛び出した。

引きずってでも連れていく予定が、まさか抱き抱えて連れていくことになるとは。

なんの反応もなく、腕の中でグッタリを項垂れる彼女をゾロはただ強く抱き締めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「もう大丈夫だゾ。」

一向に目を覚まさないイオナを前に、チョッパーはいつもの調子で言う。容態は落ち着いたという意味だろう。

「おう、ありがとな。」

ゾロは視線を彼女へと向けたまま、ボソリと呟いた。

抱き抱えて医務室に連れてきて1時間。

ずいぶんと冷静さを取り戻し、あそこまで焦っていた自分が恥ずかしく思えきていたが、ここにいるのはチョッパーとゾロの二人だけ。

誰かにからかわれる心配はない。

「錆びた刃物で傷つけられたせいで、細菌がリンパ節に入り込んだんだ。点滴で抗生剤を投与したら熱も下がったし、もう心配することはねぇな。」

「傷の方は?」

「傷は浅いし、見た目より軽い。塞がれば傷跡も残らないと思うゾ。」

嘘のつけないチョッパーの明るい物言いは、ゾロをホッとさせるのには充分だった。

「俺は飯食ってくる。ゾロはどうする?」

「起きるまで見てるわ。」

「そうか。じゃあな!」

屈託のない笑顔でチョッパーはテトテトとかけて行く。よほどお腹が空いていたのだろう。

今朝方戻ってすぐに、チョッパーに診察させていればよかった。

口にこそ出さないが後悔はしている。

その償いとまでは言わないが、せめて目を覚ますまではそばにいてあげようと思った訳で。


ベッド脇の椅子に腰掛け、イオナの顔を覗きこむ。先程よりはずっとよくなった顔色、落ち着いた呼吸。汗はチョッパーによって、丁寧に拭われていた。

元気があればあったで迷惑な奴ではあるが、こうして寝込まれているよりマシである。

目覚めたら、あの町でなにをしていたのか聞き出してやろう。イオナに銃口を向けていたあの少年のこともよくわからいままだ。

どうやらあの時は助け出すことに夢中で、イオナの足下に転げていた浮浪者の死体の存在には気がついていなかったらしい。

ゾロは肩に怪我を負わせた犯人はぶち殺してやろうなどと物騒なことを考える。

浮浪者が本物のゾンビになっていれば、そんな彼の意思も叶うのだろうが─残念ながらあの死体は、今朝方自警団によって回収、埋葬されてしまっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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