その問いに、冷や汗を垂れ流したのも言わずともわかること。
ゾロは察しがいい。ならば鼻っからイオナの気持ちを察していればこうはならなかったのだけど。
彼の察しのよさには「こういう時だけ」が頭についてしまう。
つまり、好意には鈍感でありながら、言葉の棘やそこに潜む意味には妙に勘が働くのだ。
そして、今。
ナミが言わんとしたことを理解した上でゾロはあえて問う。
「どういう、意味だよ…。」
確信に触れている。けれど、それでも相手の口から聞かされないと確信はしたくない。
そんなゾロの希望をナミは当然のごどく呑み込み、的確に宣言する。
「イオナはあんたが好きなの。だからずっと迷惑にならないようにって気持ち押し黙ってたんでしょ?」
やっぱり。
ゾロの胸中での予測は予測でなくなった。
ただまだ確信はしていない。
この状況をまだ呑み込みきれていない半面、心のどこかで次から次へと疑問が沸き上がる。
あのビンタはいったいなんなんだよ。
なんで好きになってあげるとか、訳わかんねぇこと言ってたんだ?
なんでアイツは…
「ゾロ。悪いことは言わないから、好きじゃないなら構うのはやめてあげて。」
「なんでお前に、んなこと…」
「あたしじゃなきゃ誰が言うのよ。」
ゾロは口ごもる。
このままイオナを探しに行ってしまえば、彼女を好きだと告白しているようなもの。
でも行かないのは…
昨日の傷口を思い出し、グッと歯を食いしばる。嫌な予感。ただの予感てはあるが、されど予感。
相手の気持ちに気がついていなかった。それと同時に自分の気持ちだってまだ"曖昧"なのだ。
踏みっぱなしであれば起爆しない地雷。
ナミは今、一緒に爆死できるのかと聞いているに違いない。
ゾロは勢いでは動くが、いい加減ではないために考え、考え、考える。
導きだした答えは─
「その話は後だ。」
たった数分で出せる答えではない。ゾロは一時的なものになるとわかっていながら撤退を決める。
「アイツをチョッパーんとこに引きずってってからでも遅くはねぇだろ。」
「ったく…。つまんない男。」
真面目くさって答えたゾロに対して、ナミはそっけなくそう言い放つ。そして、雑誌を筒上に丸め、それで彼の頭をポンポンと叩きながら続ける。
「イオナなら、まだ部屋で寝てんじゃないの。アンタが部屋まで訪ねてきたら、動揺しすぎて心臓止まるかもしれないけどね!」
たしかにそうだな。
一瞬、その冗談に同意してしまったものの、ナミに様子をみてきてもらおうなどとは思わなかった。
ただ、そこまで頭が回らなかっただけかもしれないが。
カタンと椅子を鳴らして立ち上がる。彼の意識はすでにイオナへと捧げられており、誰がそこに居たとしても、そこまで気になるなら認めてしまえと言いたくなるだろう。
ナミはしらけた目で部屋を後にするゾロを追い、入れ替わりに入ってきたサンジの視線を睨みを効かして追い払う。
好き同士なら付き合えばいいのだ。
一番いけないのは、曖昧なままでギスギスすること。
「はぁー。腹立つ。」
ポツリと呟いた彼女の声にサンジがビクリとしたのは言うまでもない。
ゾロは急ぎ足で女子部屋へと向かう。
頭の中の片隅ではナミに言われた言葉がグルグルと巡っているが、今大事なのはそれではない。
怪我の治療が一番だ。
ビンタはしたいだけさせとけばいい。アイツはそういう女だ。
まるで他人事のようにそんなことを考えて、嫌な予感がただの予感であることを願いつつ足を動かした。
女子部屋をノックしてみるも、まったく反応はない。
ただ寝てんのならいいけど…
不意にそんなことを思ってしまう。
そんなゾロの無意識下の願いも虚しく、予感は的中していた。
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