ゾロ | ナノ


「ご、ごめんね。こ、こんな破廉恥なもの、ゾロが持ってるなんて…」

違うと否定したいゾロに、口を挟む隙を与えることなく言葉を紡ぐイオナ。

「だ、誰にも言わないから。その、間違えて誰かに言ってしまわないように、私、ここで死のうと思って─」

おいおい、まてまて。
どんだけ物騒な女なんだよ。

突っ込みを入れたい。

ゾロはそんな欲求を押さえ込みながら、この状況を打破する作戦を考える。

今の彼女に、説得の言葉が通じるのかどうかすら怪しい。でも言葉を投げ掛けなければそれこそオオゴトではないか。

額の汗の流れ落ちる感覚にすら緊張してしまう。それほどまでに、ゾロにとってこの状況は理解不能だった。

しかし彼女にとっては違う。

「─ゾロのバカ…。」

彼が透け透けランジェリーを所持していたことにも驚いた。でもそれよりもっと驚いたのは、それのカップ数が自分のものとピッタリだったこと。

偶然かもしれないと考えることもせず、ナミの仕業だなんて思い付くはずもなく、ただただ驚いた。

驚いて、驚いて、驚いて─

動揺している最中に彼が戻ってきてしまい、心にもないことを口走ってしまった。

どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの?ねぇ、助けて、誰か!

しかし、手元にあるのは短刀と透け透けランジェリーのみ。もちろんだが、出口に近いのはゾロ。

しかも、死ぬと宣言してしまった!

ゾロはすごく困った顔をしている。そして、あたふたしている。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

イオナの膝の上にあるランジェリーは、どんなに問いかけてもなにも答えてはくれない。

重要な部分以外はすべてレース作りでありながら、ピンクのフリルは忘れないという洗練されたデザイン。谷間にあるどデカいセンターリボンが愛らしく、それはもう─

「こういう、凝ってるのが好きなんて─」

驚くほどにかわいい。エロかわいい。

しかし、ゾロのイメージとは大幅にズレていて、違和感がないと言えば嘘になる。

でも、イメージと違うゾロも嫌いじゃないから!

心中穏やかじゃないイオナは、プルプル震える手で短刀を構えたまま、ほぼレースのランジェリーに視線向けた。

刹那、ゾロは跳躍する。

いまだ!今しかねぇ。

胸中でそう叫び声をあげ、イオナの手に持つ短刀に飛びかかった。

「えっ?ひゃっ!キャッ、ちょ!?」

それはもう、すったもんだ。
小さなベッドの上での短刀の奪い合い。

ガタガタ、ギシギシ、ドンドン…

ゾロは、仰向けに倒れた彼女の上に股がると、強く腕を掴み短刀から手を離させる。

落ちた短刀を拾い上げると床に投げ捨て、彼女の身体を組み敷いたまま両腕を一手に納め、頭の上で押さえつけた。

怯えと驚きの入り交じった表情で、イオナはゾロをみつめる。彼女のその瞳に一瞬色めきたった影がみえ、当然のこと彼は狼狽した。

まずいだろ、これ。ほんと。
誰かにみられたら、マジでやべぇぞ。

わかっていながらも手が離せないのは、このまま彼女に逃走される方が嫌だと思ったから。

これはもう感情論だ。

決意を固め、ゾロはイオナの瞳を捉え言葉をかける。

「ひとまず、話を聞いてくれ。」

それは、それは、真剣な眼差しで─

「ひゃ?は、はい。そう、します…。」

気合いをいれすぎたからだろうか。さっきとは打って変わって、イオナは目を瞬かせながら頬を赤くする。

おい。こりゃ、どういう状況だよ…

彼女の照れ具合は、押さえつけている当人のゾロですら状況を見誤ってしまいそうになるほどすさまじい。

これ以上、直視してはいけない。

彼は本能ながらにそう判断し、思いっきり視線をそらす。が、そこには透け透けランジェリー。

「─…っ!!!」

再び、勢いよく反対側に視線をそらした。

それでも、自分も顔を真っ赤に染めてしまいそうになっている事実からは目を背けられず─慌てて頭を左右に振った。

「あの、ゾロ…?」

「お!?あっ、な、なんだ?」

「は、話って、何かな…?」

彼女の躊躇いがちな問いかけに、首をブンブン振っていたゾロはピタりと止まり、視線をそらしたまま口を開く。

「あぁ、わ、悪ぃ。この包みの中身の件なんだが─」

ナミとのやり取りについて語り始めたゾロ。それは丁寧に、こと細かく、(自分の感情以外)すべてを包み隠さずに─

しかし、逆上せ頭のイオナの脳は、流れ込む情報を処理しきれない。というより受け入れてすらいない。

どうしてゾロはこんなに必死に説明するんだろう。私なんて放っておけばいいのに。もしかして誤解されたくないとか?でもどうして?

もしかしてゾロ…。

妙なところで勘がいいイオナは、さらに頬を赤らめ全身を火照らす。

その時ふと、彼女は思い出した。

彼に、こちらの好意を気づかれてはいけないと思っていたことを。

しかし、同時に思い出すことができなかった。

好意を隠し通さないといけないと思っていた理由を。

理由を忘れて、結果のみを求めてしまうなんてのはよくあることだ。

たとえ、理由が消滅することで、その結果に意味がなくなるものだったとしても、そのシステムに気がつけなければ意味はない。

そして彼女は見誤った方向へ気持ちを加速させていた。

「─だから俺のでもねぇし、俺は買いにも行ってねぇ。」

ゾロの説明が終わると、イオナは静かに口を開く。

「──になってあげてもいいよ…。」

「ん?」

なんの脈絡もなく何やらボソボソと呟いた彼女に、ゾロは驚き、反射的に首をかしげる。

それに対して、プルプルと震えながら、彼女は声を張り上げた。

「そんなに私のことが好きなら、好きになってあげてもいいけど!?」

「はい?」

「私にぴったりサイズのエッチなランジェリーを、ナミに買ってきてもらうくらい私のことが好きなら─」

やべぇ。コイツ、話を一切聞いてねぇ。それどころか恐ろしいレベルの勘違いしてやがる。

ゾロは、再度緊張感を覚える。が、イオナは興奮ぎみに言葉をつむぎ続ける。

「─毎度毎度押し倒したいくらい私のことが好きなら、私もゾロのこと好きになってあげてもいいよ?」


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