サボ | ナノ

volume9.

サボから「食事にこないか」と声をかけられたのは、あれから2、3日経ってからだ。DVDを視聴した時に負ったダメージもまだ回復していないのに、一体どうしろと言うのか。

エースは今が仕事中だというのに、ぼんやりしてしまう。妹のような存在だったイオナを異性として意識し直すこととなったのは、あんなことやこんなことがあったせいだろう。

正直、昔のような自然な流れで逢える対象ではなくなってしまった。一度関係を持ってしまった時点で、二人きりで逢うのは根本的に控えるべきである対象。

本音を言えば、そこにサボがいたとしても顔を合わせるのは控えたい。というより、サボがいるのならなおのこと顔を合わせるのは複雑だ。

それでも、自分は誘いを断れないのだろうと思う。

イオナが心配だとか、弱味を握られているからとかいうのではなく、それはすでに決定事項のようなもの。

昔から、サボの誘いというのは否応なしの決定事項なのだ。

「なんともなんねぇよな…」

複雑なはずの胸中。それでいて、本能は嫌になるほどに弾んでいる。 強く主張してくる自身の男の部分に、更に複雑な気持ちになりながら、エースは携帯電話を耳に当てた。

……………………………………………………………

「今晩、そっち行くから。」

そんなエースからの電話に、イオナは狼狽する。あの日以降のサボは至って正常だ。それまでの奇行が嘘のように落ち着いていて、ノーマルな行為を繰り返している。

「大好きだ」「愛してる」の言葉を重ねられ、大切に扱われるほどに、あの日々が嘘だったように思えたけれど、エースがこうしてよそよそしく電話をしてこられてしまうと、いたたまれない。

「今日って、そんな。急に言われても。」

「サボに呼ばれたんだよ。仕方ねぇだろ。」

「でも…」

「心配するな。」

「………。」

まるで自分に言い聞かせるように呟かれた台詞に、言い返す言葉がみつからない。まるで逃げ出すようなタイミングで、「それじゃあ、またな。」と通話が途切れた。

ツーツーと電子音がなる。「平穏は終わった。」そう言われているようだった。



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