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モネの帰りを待ち望むシュガー。

ベッドではなくリビングのソファの上で、モネの毛布にくるまる彼女の姿はまるで小動物のよう。

「どこにいったんだろう…」

ドフィおじちゃまに連絡はつかず、同様にヴェルゴも留守番電話サービスに接続されてしまう。

留守電を入れようか迷ったものの、年末に失踪騒ぎなんて起こしてしまえば大騒動で仕事の邪魔になりかねない。

自分たち姉妹の喧嘩に、親類やお世話になっている人たちを巻き込むのは間違っているとシュガーは感じた。

そのためジッと黙って、待ち続けることにしたのだが──。

改心してからというもの、時間の流れがやけに遅く感じてしまう。

年末のバラエティー番組をつけたところで笑える心理状況でもなく、隣にモネが居ないことを更に強く感じさせられ涙が溢れてくる始末。

モネのスマホは電源が入っていないようで連絡がつかず、もちろん連絡もない。

自分一人では片付けきれなかった散らかったままの部屋で、シュガーは大きなため息をついた。

時計の針はカチカチと音を立てる。

2本の針の距離は徐々に縮まり、もうすぐ12時を指そうとしていた。

去年はモネが湯がいた年越しそばにシュガーがくるくるの鳴門を乗せて、二人で仲良く啜ったというのに…

今、シュガーの手元にあるのは500mlのお茶が入ったペットボトルだけ。

「モネ…。」

ギュッと毛布を抱き締める。モネの香りが肺いっパイに広がり、心細さが加速する。

あと5分…

時計の針をちらりとうかがい、シュガーは更に祈る。

モネに帰ってきてほしい。もうわがままは言いませんから。と。

すると玄関の方から、微かにではあるがカチャリと音が聞こえた。

「モネッ!?」

シュガーは大きく声をあげ、ソファで飛び上がる。ちょこんと床に足を下ろすと、スリッパに足を突っ込むのも忘れてそのままそちらへ向かって飛び出した。

「ごめんなさい、モネ。私…ッ」

溢れる涙を拭いもしないで玄関に向かって急いだ少女。そんな彼女の目に映ったのは待ち望んだ姉の姿ではなく。

「よう。」

そっけなく声をあげたグラデウス。

なんで…。そう口にしかけたシュガーに彼は赤いラッピング用紙の巻かれたバスケットボールくらいの大きさの箱を差し出した。

「チビッ子に渡してこいって言われてな…」

「誰、から…?」

「モネに決まってんだろ。アイツもアイツなりに、なんかあるみてぇだな…。」

グラデウスはめんどくさそうにそう言いながらも、視線でラッピングを解けと訴えかける。

彼のその視線に応えるかのように、シュガーはラッピング用紙を破らないように剥がしてみた。

するとどうだろう。

その中にあったのは一通の便箋と、欲しがったうさぎのぬいぐるみよりずっと高価に見えるぬいぐるみ。

どうにもそれは手作りのようで、タグなどがいっさいついていない。

急いで便箋を開き、手紙を読んだシュガーの頬を伝うのは涙。

自分のためにモネがうさぎのぬいぐるみを作ってくれたこと。今どこにいるとかは明かせないということ。 モネは自分がいなくてもシュガーなら大丈夫だと思い込んでいるということ。

そこに書かれていたのは自分を労るような言葉ばかりで。

「違う…、そんなんじゃない。」

モネが自分を一番に想ってくれていることがヒシヒシと伝わってくる文面だった。

急にポロポロと泣き始めた彼女は、ズルズルとへたりこむ。バツが悪そうな表情を浮かべるグラデウスの存在はもう見えていないのか、そのままワンワンと泣きじゃくり始めた。

「モネがいい…、ぬいぐるみなんかより、モネに戻ってきてほしいよ…」

しばらくその様子を腕組して、呆れた眼でみていたグラデウスは「はぁ」と大きなため息をついた。

そうして自身の背後、玄関のドアの向こうにいる人物に声をかける。

「おい、モネ。聞こえてるか?」

「えぇ、まぁ?」

「戻ってきてやれよ。俺じゃどーにもならねぇし。」

「でも…」

そんな二人の会話になど気がつきもしないで、シュガーはモネお手製のぬいぐるみを強く強く抱き締め泣き続ける。

逢いたいよ、逢いたいよと声をあげながら…

普段よりずっと幼い態度で声をあげて泣くシュガーを前に、モネの心は揺れ動く。

もう自分はシュガーにとって必要のない存在はなのかもしれない。

そう思い家を空けたモネは、キツネのぬいぐるみを譲ってくれた方のもとへ行き、うさぎのぬいぐるみを1つこしらえた。

それを届ければ、彼女は喜んでくれるのではと考えたのだが。

「ぬいぐるみなんていい、モネがいい。お願い。グラデウス…。モネに、会わせて…」

プレゼントなんかより自分を必要だと言ってくれている。自分の帰りを待ってくれている。

「もう帰ってやれよ、モネ。」

背中を押されるようにして、シュガーの正面に立ったモネ。妹は泣きじゃくっているために自分の存在に気がつかない。

「シュガー、ごめんなさい…。」

しゃがみこみ、白く冷たい指先でその柔らかな髪に触れる。 まだ一週間も経っていないというのに、こうして触れるのはやけに久しぶりに感じた。

「モネ…?」

涙声で名前を呼ばれ、潤んだ瞳を向けられればもう止まらない。そのままギュッと小さな身体を抱き締め、繰り返し「ごめんなさい。」とモネは口にした。

「私こそ。ごめんなさい。モネ…」

「いいのよ、シュガー。」

ギュッと抱き合う二人の耳に届く、12時を知らせる鐘の音。

「あなたが欲しがっていたぬいぐるみはどうしても手に入らなかったの。だから、私が作ってみたんだけど…」

「気に入った。すごくいい。部屋に飾るから。大切にする。」

リビングへと向いながら、離れていた時間の隙間を埋めるように会話を続ける二人。

その姿は本当に幸せそうで…

こうして仲むつまじい二人の一年が終わり、新らたな年が始まった。





「で、俺はどーすりゃ…」

玄関で取り残されたグラデウスを除いて、めでたし。めでたし。

to be continued.

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