Mission's | ナノ

妄想爆裂恋愛模様

ショッピングモールの一角で、サンジは柱の陰に隠れて一組のカップルを見張っていた。

そのカップルがウィンドウショッピングを続けている間、彼は柱の陰から柱の陰へと移動を続け、その店舗の中を監視し続ける。

あまりにもコソコソとしているので、小さな子供が指を差し、親が「みちゃだめよ。」と口にして遠ざけるという構図が出来上がっている始末。

それに加え、警備員がある程度距離を取りつつサンジの周りをウロウロし動向をうかがっている状態であるのだが──彼は全くもって気にしていない様子。

少しばかり鼻息を荒げながら、禁煙のモール内を意識しているのか禁煙パイポを口にくわえている彼の目は何故だかハート。

それもそのばす。

鼻の下が伸びっぱなしのサンジが、周囲の怪訝な目を気にすることなく、生暖かい視線を向けているのは…

彼が猛烈なまでに過剰な愛を捧げ続けている恋人、イオナなのだから。

さて、では何故彼女が男連れなのか。

それはサンジにもわからない。

ただ、そんなことは彼にとって、どうでもいいことだった。

実家に帰るから今日は逢えないと連絡をしてきたにも関わらず、恋人が男とデートしていた。

普通の男性がそんな状況下に置かれたならば、きっと怒りが沸き上がるに違いない。そうでなくても、動揺したり、焦ったりするだろう。

ただ、サンジは一味違う。

「デートしてるイオナちゃんもかわうぃいなぁあ、おい。」

浮気疑惑の立つその瞬間ですら、恋人の魅力に胸をキュンキュンとときめかせていた。

今しか見えない恋人の姿を貪るように網膜に焼き付け、沸き上がる熱い想いを、荒い鼻息に変換にして吐き出し続けるサンジ。

その様子はあからさまに変態といえる。
十中八九変態であり、四面楚歌になるほどに変態である。

が、彼にとってそんな周囲の評価は、特になんの意味もない。

むしろ、彼の抱くイオナへの愛によって、そんな痛烈な視線すらも弾き飛ばしてしまうのだから。

「これは、イオナちゃんから俺に与えられた試練だ!」

サンジは一人呟く。

「俺の反応をうかがっているに違いない。それともアレか。俺にヤキモチを妬かせて仲直りの儀式を…」

拳を握りしめながら、今にもとろけそうな表情を浮かべる。

この状態でも相変わらず真ッピンクな妄想ができるのだから、彼のハート(心臓)には毛が生えているどころか、手足がついているのがも知れない。

「嫉妬プレイ。いや、擬似的な寝取られプレイ?まさか、イオナちゃんは俺のハートに、自分を失った時の喪失感を焼き付けようとしてるのか?俺が自分から離れてしまわないように!?」

次から次へと溢れだす、なんとも都合のよすぎる解釈。

もしそれが彼女の本来の目的ならば、今日、サンジがここにくることを想定していなければいけないわけで。

偶然たまたま出くわした経緯からして、それは確実にありえない妄想シナリオと言える。

ただ、サンジの熱い想いの中に、理屈や経緯なんてものは存在しておらず、恋心の思うががままに突き進むのが彼の愛の形なので"結果"が全て。

今、デートを見せつけられている現状のみを汲み取り、そこに感情を当てがうのが当然の成り行きなのだ。

一方イオナは。

─あれ、絶対にサンジくんだ…。

柱の影に隠れるブロンドヘアをいち早く発見しており、いったいどのタイミングで話しかけるか迷っていた。

「お兄ちゃん、あのさ…」

「イオナ、こっちはどうだ?」

「あぁ、うん。かわいいと思う、よ?」

実家に帰って早々、兄に『彼女へのプレゼントを買うから付き合ってくれ』と言われ、強制的にここに連れてこられたかと思えば恋人が新手のストーカーまがいのことをしている。

だいたい、指輪をプレゼントするなら+@なんていらないだろうと思う。

確かにサンジくんはどんなプレゼントにも花束をセットしてくれるし、それは嬉しいことなのだけど、兄が見ているのは雑貨屋やら服屋やら。

花のように傾向さえ掴んでおけば問題ないものならまだしも、服や雑貨は趣味や部屋のインテリアにも多く影響されるために兄の恋人に会ったことのないイオナが選んだところで…である。

しかし、兄の方はあれやこれやと楽しげに見て回っており、まるで自分の買い物しているかのような有り様だ。

だいぶめんどくさくなってきて、なんとか逃げて帰れないかと画策していたところにサンジくんの追加。

柱の影に隠れてこちらを見ている感じからして、きっとなにか『よからぬ勘違い』をしているに違いない。

面倒事が2つになってしまったことを理解した時、目眩すら感じてしまったイオナだったが、それでもこの場から逃げ出すこともできないで、ただ大きな溜め息を漏らした。

◇◆◇◆◇◆

ペアのマグカップを購入したイオナと連れの男を見届けたサンジは、いったいあの二人はどんな関係なのだろうかと改めて思考を凝らす。

どうやら、購入品がマグカップということもあり、二人の関係が一時的なものではないと判断したらしい。

先程とは打って変わって、真剣な面持ちとなっていた。

フードコートへと消えるカップルを追跡しながら、ガシガシとパイポを噛みつけ、プラスチックの部分が欠損し砕け落ちる。

プラスチック片が舌に傷をつけ、口内に血の味が滲むも、それに気を取られている暇はなくイオナと連れの男を追いかけた。

4人掛けの席に、向かい合って座ることとなっている二人を見届けたサンジは、一人少し離れた席に腰かける。

そこからでは男の顔こそみえないが、彼女の顔はよく見えた。

他の男といるイオナもかわいいが、やはり、自分以外の男と肉体的な接触をはかるのだけはやめてほしい。

ここでなんとか通常の思考の枠に収まらんとするサンジだったが、やはり彼はどこかおかしい。

苦虫を噛んだ表情を浮かべながらも、彼はスマホを構えイオナへと向けた。

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