Mission's | ナノ

ソファで組み敷かれたイオナは、わずかにはにかむだけで嫌がる様子はない。それどころか身体を投げ出し、無防備に振る舞う。

「キャプテンは、色狂いですか?」

「誰が性欲の強い男だ。」

「トラファルガー・ロー。あなたです、キャプテンさんっ。」

挑発するかのようなイオナの口ぶりに、ローは言葉を探す。組み敷き、優位にたっているのは自分だというのに、何故、心理的に追い込まれているのか。

彼女の肩に乗せた腕に力を込めた。

「で、ホワイトデーのお返しは体だったりするんですか?」

「ホワイトデー?」

「そうです。バレンタインデーのあとは、ホワイトデーです。お返しの日があることは、博学で賢明なキャプテンならご存知かと。」

「クッ…」

あぁ、忘れていた。

《義理チョコ》発言から3週間と少し
その件については、一度も考えたことはなかった。言葉につまったまま難しい表情を浮かべるローにイオナは追い討ちをかける。

「忘れてたとかですか?知らなかったとかですか?それとも…」

「いや、そんなことはない。」

「じゃあお返しくださるんですか?」

「あぁ。欲しいものをくれてやる。」

苦し紛れだった。博学だの賢明などと持ち上げられているのに、「用意してない」とは言えなかった。

彼女はローの表情をみて楽しげに笑い、手を伸ばすと頬に触れた。冷たかったはずの指先が、熱く感じる。

彼の喉の膨らみが上下した。

「キャプテン、体でお返しください。」


「その言葉の意味がわかってるのか?」

「言ってるのは私ですよ。わかってる。わかりすぎてるよ。」

先ほどとはうって変わって、イオナは吐息混じりの口調で言葉を紡ぐ。わずかに頬は高潮し、瞳は潤み始めている。

ローの胸は期待に膨らんだ。

「イオナ…」

吐息を漏らす唇に蓋をしようと顔を近づけた時、唇に人指し指が触れた。

「キャプテンってば、はやとちり。」

「ん?」

彼女の指先は唇をゆったりとなぞり、力の入った眉間を強く押す。ローは困惑していた。

この流れで焦らされるとか。そんなおかしな話があるだろうか。

ドクドクと脈を打つ部分をもったまま静止させるのは、待てと言われた犬の気分だった。

一秒の長さを知った時。

「私は、小指が欲しいです。」

イオナが不適な笑みを浮かべ、ローは再び大きく息を飲み、喉元を震わした。

「折らしてください、小指。」

背中に冷たいものが走る。先ほどまで感じていたあの追い詰められている感じの正体は、彼女の異常性が原因だったのだと悟った。

「悶絶するキャプテンの姿がバレンタインデーのお返しってことで。」

艶っぽい笑顔とは異なるおぞましい発言は、身体中の産毛を毛羽たたせる。

「それは…、勘弁してくれ。」

「さっき、体で返すって…」

不満げな彼女の唇を塞ぎ、割れ目から舌をねじ込む。噛みつこうと動く歯を切り抜けながら口内を探った。

「んっ、キャップ…」

彼女のむっちりとした太ももが、腰の辺りを撫で触発される。

ずっと抱いていた可愛らしい女の子のイメージは消え去ったものの、それでもまた別の魅力に翻弄されていた。

「ダメですよ、こんなの。」

「たかがチョコ1箱で骨をやらせるか。足りねぇ分は身体で払え。」

「交渉成立。やっぱり、キャップは色狂いだ。」

イオナの手が、ローの小指に触れる。

「本気か?」

「本気の本気。」

細い小指は手の甲に向かって反る。ローが「クッ」と息を漏らし顔をしかめる様子に、彼女は官能的な表情を浮かべると吐息を漏らしながら力を込めた。

「クッ、ぐはぁ…あぁぁあああ!!!」

「キャプテン、素敵ですっ。はんっ。ダメですよ、そんな息づかいで、そんな目でみないでください。」

「やめろ!1本やったろーが。」

「いいえ、小指は4本あるんだよ、ですよ!ですから!!!」

「頼む、やめて…くぁ、ハッ、あぁ…、ぁあああ!」

「キャプテン。そんな目しちゃだめです。あぁ、私、もうだめ!」


The next story is Sabo .

prev | next