恋の継続時間
「人間の脳ってのはどんな仕組みなんだろうな、一体。お前はどう思う?」
「もう!シャンクスさんっ。そんな話はどうでもいいんで、仕事してくださいよ。」
「どうでもいい?お前は自分のここにある物の神秘に…「大事なのは神秘より、現実。今、なう、ですよ!」
自分のこめかみを人差し指で押さえて熱弁するシャンクスの言葉を遮り、チェーンで結ばれた数個のUSBを手渡すのは部下のエース。
「お前は夢がねぇな。男ってのは…」
今だ落ち着いた口調で無駄話を続けながらも、チェーンごとそれを受けとり自身のデスクに腰かける。その様子をみた部下もまた呆れた笑みを浮かべながら自身のデスクと向き合った。
しかし、シャンクスはまだ考えていた。人間の脳、特にホルモン分泌の性能と不思議について。
人の恋の継続期間は3年だ。なんて言われるけれど、あれはただ漠然とそう言われているわけではない。
恋愛ホルモン(PEA―フェニルエチアミン―)と呼ばれる物質の分泌が3年経つとストップしてしまうということがわかっているというのだ。多少個人差はあるだろうものの、その3年という数字はあなどれないとシャンクスは考えていた。
何故なら…
彼のデスクの片隅に飾られた写真立て。彼に似合わない純白のフレームに納められた、マカロンのような穏やかな雰囲気を醸し出す女性。
今年の3月14日で交際して3年になる恋人、イオナの存在があったからだ。
鉄は熱いうちに打て。
昔を生きた人たちの残した言葉の数々は科学的根拠こそないものの、それなりに利にかなっていることや、正しいことが多い。
つまりこの3月14日までが熱された鉄モードということになり、それ以降は灯油でも投げ込んで火をつけないと冷めた鉄ということになる。
すでにパソコンは起動され、データも開いているというのに、気持ちはどこへやらのシャンクスはまだ、キーボードに触れることなくぼんやりしていた。
「シャンクスさーん。まだパソコン起動できてないんですか?」
「あぁ。ウイルスかなんかか?コイツ、めちゃくちゃおせぇぞ。」
「ウイルスだったら、データただ漏れで会社が大事になっちゃいますよ。」
エースの言葉で我に返ったものの、頭の中は、上から2番目にある鍵のついた引き出しに隠された、ダイヤの指輪のことでいっぱいだった。
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