そろそろ届いたろうか。喜んでくれるだろうか。礼なんて言われたらそれこそ照れ臭いじゃねぇか。
キッドは天井をみつめながら考えていた。
電話をかけるのも、メールを打つのも上手くできなかった。考えただけで硬直してしまう脳ミソは、どうやら本気で緊張しているらしい。
受話器越しに口ごもるカッコ悪さや、メールの文面にするとヘタレっぽくなる想いの丈。
『なんかプレゼントでも渡せよ。』
仲介人のアドバイスを聞いてないふりしながらこっそりと受け入れ、送りつけたプレゼント。
「返品したらぶっ殺すからな。」
不安を掻き消したくて呟いて、そばに居られない悔しさともどかしさに拳を握る。
その時。
ガチャッ
ドアノブが回転した。
ガチャガチャガチャガチャ…
何度も何度も回転する。
ガチャガチャガチャガチャガチャ…
こんなことする奴は一人しかいねぇ。
キッドの心臓は爆音をたてながら忙しなく動き始め、何度も小さく深呼吸しないと言葉を吐き出せそうにないほど、肺が萎縮した。
それでも、威勢よくしたい。
スゥーッと息を吸い込み声を張る。
「チャイムを鳴らしやがれ!クソ女!」
ドカドカとおおげさに音を立てて玄関に歩みより、なんどか躊躇った後、ドアノブの上にある鍵に手を触れた。
ガチャン
と音が響いた瞬間。
握りしめていたドアノブを引くと、ずっと逢いたかった人がそこにいた。言わなきゃいけないことはたくさんあるのに、照れ臭くって言えやしない。
「キッド。あれは、高価すぎだよ…」
走ってきたからか、息が切れて声が掠れる。でも、不思議と苦しくない。今までの胸の痛みに比べたら、全く苦しくなんかない。
「欲しいもん買わねぇと意味ねぇと思っただけだよ。値段なんて知るか。」
視線を泳がせる彼は完全に頬を赤らめていて、それが無愛想な表情とはどうもミスマッチでなんだかおかしい。
「とりあえず入れ。寒ぃわ。」
玄関に背中を向けて室内に入ろうとするキッドに、イオナは言葉を投げ掛ける。
「じゃあ、キッドの気持ち教えてよ。」
その言葉に彼は足を止め振り返って笑う。
「じゃあってなんのじゃあだよ。」
「付き合ってもないのに部屋に上がれない!上がってほしいなら教えてよ。」
途端、キッドの表情が険しくなる。
「てめぇ、ロロノアん家に出入りしてんじゃねぇのかよ。俺が知らねぇと思って…」
ヤバい。とっさに思うもすでに遅し。
言い訳を考えなら、視線を泳がせる。あぁ。後日、ゾロには肩パンするとして、キッドの怒りをどうしよう。チラチラと彼の様子をうかがって、鋭い眼差しに向けて、無理矢理口角をあげて見せた。
そのまましばらくの沈黙。
時間の経過が怒りを高めているような気がして恐ろしい。
どこかからか聞こえる救急車のサイレンが近づいてきて、遠退いてゆく。
「あ、あの…」
イオナが口を開くと同時。
「俺に指図するな。あと、俺より優位に立とうとするな。あと、男のアドレス全部消せ、あと、バイト先変えろ。
それができたら付き合ってやるよ。」
ゆっくりと吐き出されたのはキッドらしい要望の数々で、その内容の俺様具合に彼女は呆れ笑いをこぼしながらも頷いた。
The next story is Shanks.
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