ゾロの電話の相手は、いつの間にかの腐れ縁、バー店員をやっているサンジだった。
「あぁーい。来てるぞ。もうなんかやべぇぐれぇキレてやがる。」
『なんか言ってるか?』
「いんや、ただキレてるだけ。客に喧嘩吹っ掛けるから、店にいられちゃ商売になんねぇよ。つっーか、なんでコイツが来てるってお前が知ってんだよ。」
『いろいろあんだよ、じゃーな。』
「知り合いなら迎えにって…、クソ。ほんとに切りやがった…。」
突然、電話を切られ、苛立ったサンジは、泥酔し汚い言葉を吐き出しまくる男を睨み付ける。
「ついでってなんだよ。クソッ。本命って誰だ?殺すぞ。本気でぶち殺すぞ。」
殺す、殺すって、物騒すぎるこの客をどう片付けるか考えながら、タバコをふかした。
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あれからもうすぐ1ヶ月。
イオナはバイト先のレジの下、ゾロの足元にしゃがみこみ、スマホを握りしめていた。何度目かの新着メールの問合せは無意味に終わり、小さくため息をつく。
「連絡ねぇんだな。」
「うん。代わりが出来ちゃったのかな。」
こんなに落ち込まれては、「本命がいるなんて言うからだろーが。」なんていえっこない。膝に顔を埋める彼女をぼんやりと眺める。
「代わりなんていくらでもいるもんね。」
「んなことねぇだろ。」
「どうしてそう思うの?」
「別に。」
どうしてと聞かれても、そんなの当人同士の問題であって、両方から愚痴を聞かされる立場なだけの自分にはわからない。
ただ午前中に彼女の想い人であり、セフレであったキッドに、『たまたま』パチンコ屋で出くわし、意味のある言葉を少々交わしただけだ。
………………
今日はめっちゃ玉が出る。
あぁ、こんな運のある日には1パチじゃなくて4パチにすればよかったなんて内心嘆きながら、溢れ出る玉の入ったドル箱を足元に積んでいく。
そんな時。
「よう、ロロノア。」
「おう。」
聞き覚えのある砂を踏みつけた時のようなザラっとした感じの声が聞こえ、振り向くことなく返事をする。
「1箱くれよ。」
「タダでやるかよ。買い取れ。」
「個人売買は犯罪だぜ?」
「勝手に取るのも犯罪だろーが。」
聞いてない訳ではないだろう。ただ当たり前のようにドル箱が1つ拐われ、キッドの手により隣の台に流し込まれる。
わざわざ隣に座る理由なんてわかっていた。だらだらされても困ると思い、言葉をかけられる前にゾロが先にたずねた。
「で、話はなんだ?」
しかし、無言…。
険しい顔をして玉が台に吸い込まれていくのをアシストするこの男の存在をもて余す。
「今日バイトなんだよ。用事があるなら早いとこ言ってくれ。」
「用事なんてねぇよ。別に。」
「そーか。ならいいんだけどよ…。」
あぁ、俺は余計なお世話をしている。わかっていながらも、あまりのめんどくささにベラベラと話してしまって。
…………………
キッドが相手だと知られていないと思っている彼女に、奴と言葉を交わしたことは言わないとして。
他人の恋のために脳みそ爆発しそうなほど考えてる自分のアホさ加減に、大概イライラとし始めた。
「お前、もともとなんで好きな男とそんな関係になったんだよ?」
「彼女いたから。」
「そうなる前に別れさせればよかったろ。」
「だって…。」
「だって、でも、はいいけど、その展開のない悩みを俺はいつまで聞いてりゃいいんだよ。」
余計なことを言いたい訳じゃない。ただ静かに暮らしたいだけだった。
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