「やべぇ…。」
トイレに立てこもったゾロは頭を抱えていた。女心に鈍感な彼にとって、イベントというのは難関で複雑怪奇なものだ。
クリスマスは2週間という余裕が与えられた上に、島に立ち寄る機会があり、ドタバタではあったものの、なんとかなった。
しかし、今回はなんの予兆もなく、突如として現れたのだ。敵襲であれば斬ってしまえばいいものの、イベントなんてのは受け入れる他ないのだから動揺は拭えない。
「どうすりゃいいんだ。おい。」
トイレットペーパーをくるくると巻き取りながら考える。手に紙の塊が出来ているにも関わらず、意識は完全によそを向いていて全く気がつかなかった。
●○●○●○●○●○●○●
「で、私のところにきたの?」
「こんなこと聞けるのお前くらいだろ。」
図書庫にいたロビンを捕まえたゾロは、ホワイトデーの話を相談していた。照れたような顔をする筋肉質な青年に、ロビンは柔らかい笑みを向け笑う。
「無いものはないんだから、ごめんなさいじゃすまないの?」
「んなの、イオナが可哀想だろ…。」
「あら、とっても愛してるのね。」
「うっせぇよ。」
挑発的に揺れる胸からではなく、からかい言葉に照れ顔をそむけるゾロの頬はわずかに赤い。
「あの娘のためだものね。私もなにか考えておくわ。だから、今日のところはの話はもうおしまい。本を読みたいの。」
「期待していいのか?」
「そうね。しない方がいいと思うわ。」
小さな子供でもみているかのような笑みを浮かべたロビンは、恋人にいいところを見せたいと頑張る彼のことを純粋にかわいいと思った。
だからこそ…
●○●○●○●○●○●○●
「もう!なんで二人してゾロをからうの?酷すぎるよ…。」
その日の晩。女子部屋ではイオナに対して、ゾロの必死感と間抜けっぷりをからかう言葉が降りかかり、彼女は口をムッと突きだし頬に空気を溜めていた。
「私はプレゼントなんていらないって、イベントなんてどうでもいいって言ったじゃん!」
「それ本気で言ってんの?」
眉尻を下げ怒る姿が面白くて仕方ないらしく、ナミは目に涙を溜めて笑う。
「本気だって。私は…「ゾロがいてくれたらいい。でしょう?」
「うん。」
言葉を遮り先ににしたロビンは、ナミとは異なる笑顔をみせる。それはとても穏やかな優しい表情で、イオナは救いを求めるような目で彼女をみていた。
「そう言ってやればいいじゃない?きっと今ごろ悩みに悩んでるわよ。」
「私から言えば、二人がからかったことも、私が全部知ってることもバレちゃうよ。プライド傷つけちゃう。」
「そうね。だからって私からはなにも言わないわ。」
救いの目を見抜いたロビンは目尻を下げ、しっとりとした笑顔を見せる。
「だってみていたいもの。」
練乳のようにとろけた甘ったるい笑顔は、ザラッとした悪意のある言葉によって打ち消される。
「むむむ!ナミはただの鬼だし、ロビンは優しい鬼。ほんとありえない。」
「誰がただの鬼ですって?」
「ひゃー。心の声です。ごめんなさい。許してー。」
両手を頭の腕で左右に振りながら、苦笑いを浮かべる。が、ナミはその腕を掴み怒ったような口調で言う。
「心の声ってアンタそれ、そう思ってるってことでしょうが!」
途端、イオナの額には、ピシッと小さな鋭い衝撃が走った。
「痛ッ」
「アイツにインパクトのある方法でイベントを教え込むのは、アンタのためでもあるんだからね!」
「でも、ナミもたのしんでるでしょ?」
「そりゃ、たのしくないことはしないわよ。」
デコピンをされた額を押さえ、目にいっぱいの涙を溜めながらも、諦めることなく文句をぶつける。それを、ナミは腕組し適度にあしらう。
本来ならば悪さをしているのは後者の方なのだが、今回はナミの絶対的なたち位置よりねじ曲げられたその状況を、ロビンは本の向こう側からみて笑っていた。
●○●○●○●○●○
prev |
next