非常階段に座り込み、震える手で握りしめた手紙を何度も読み返す。
『これからデートでもしませんか?』
デート…。デートの誘い。
しかもシャンクスさんから。
でもどうして…。
不安半分、期待半分。
胸に手をあて深呼吸した後、紙に書かれた番号の羅列をゆっくりとスマホに刻んでゆく。
気持ちが焦って、指先が震える。
何度も間違えて、何度も打ち直す。
打ち終えてからも何度も間違いはないか確認。
高鳴る鼓動の音に焦られながら、発信ボタンに指を重ねた。
一定のリズムの呼び出し音が、静かな非常階段で場違いに響く。
『はい。』
受話器越しの声が耳元で鼓膜を震わせて、手のひらの汗がスマホを湿らせる。
「あの…、イオナです。」
大袈裟な心臓の鼓動が喉を締め付け、声が弱々しく震える。アルコールのせいで喉がカラカラだ。
『声でわかるさ。いまどこ?』
「非常、階段…で「おっ、いたいた。」
受話器と背後から同時に聞こえた声は、ぼんやりと辺りに反響し、息を切らした呼吸音がその場で大袈裟に響く。
イオナが振り返ったと同時に、ドンッと身体になにかがぶつかり、ギュッと身体が締め付けられた。
「シャンクス…さん?」
「妬かせんなよ、この野郎。」
いつものおどけた口調と頭に添えられた熱い手のひら。
「妬くって…?」
「あぁ、もう、俺のだ。イオナはこれから俺のだ。だめだめ。合コンなんてダメだ。バカだな、ほんとイオナはバカだな。」
おどけた口調は安堵と照れを滲ましていて、乱暴な手の動きが髪をこれでもかと乱し、そして、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「シャンクスさんっ…」
思わず小さく吹き出すと、ゆっくりと身体が離れて今度は頬を両手で挟まれた。
腰を屈めイオナに目線を合わせた彼の顔は真っ赤なまま。そんなのは関係ないとでもいうかのように、捲し立てるような早口で話し続ける。
「笑うなよ。もう腹立って仕方なかったんだからな。おい!」
熱い両手は頬を乱暴にムニムニと擦ったかと思えば、彼はイオナに顔を寄せ額に額を重ねる。
「もっと早くにこうしたかったんだけど、俺なんて相手にされねぇかもしれねぇだろ?な?でも、あんなのみせられたら居てもたってもいられないだろ?」
余裕のない歳上の男性。
いつもは飄々としている彼の意外な一面に、胸がキュンッとした。
「私だって…」
言いかけてやめた。
歳の差なんてどうだっていい。
もう関係なくなった。
憧れなんて言い訳も必要ない。
思う存分好きでいられる事実があれば、もう言葉なんて必要ない。
「イオナ、大好きだ。ほんと。もう大好きだ!」
子供みたいにじゃれついてくるシャンクスの首に腕を回して、その瞳をみつめて…
「私もシャンクスさんが…。」
窓のない非常階段でイオナの声が甘く響いた。
The next story is Ace.→
prev |
next