この時ばかりは、さすがのキッドも自分の行動の理不尽さや自分勝手さをある程度は理解していた。
それでも、勘違いでビクビクした挙げ句に暴力を振るおうとした自分がいたたまれなくて、恥ずかしさを誤魔化すためにはこうするしかなく…。
「今度は何事ッ!?」
「黙れ、今はマジでなんも言うな!」
やっぱり野粗に振る舞ってしまう。
「もう。午後の授業どーすんの?」
「俺の知ったこっちゃねぇな!」
「えぇー。なにそれ。」
「ふざけんな。全部お前らが悪いんだろーが。」
「お前らって誰と誰ぇ?」
全く色気のない、どちからと言えば幼稚な会話をしながら、淫らかな行為を進める二人。
「キッドが嫉妬で激おこぷんぷん。」
「嫉妬なんてしてねぇ!」
「ひゃー。顔真っ赤。かわいい。アハハ。キッドかわいい。」
「てめぇ、まじで…」
「あぁ、ダメッ。そこは…ッ」
大事だと思うほど乱暴にしてしまう。
感情をうまく整理できないで、ついつい態度で示してしまう。 そんなデリカシーのない彼にとって、イオナはやはりかけがえのない存在で。
だからこそ、彼女がスースーと寝息を立て始めた頃合いを見計らってやっと伝えるのだ。
「どっこも行くなよ──」
「──てめぇは全部俺のだろーが。」
◇◆◇◆◇◆
数日後。
イオナに呼び出されたキッドは、彼女の手元をみて唖然としていた。
「はぁい。ジャッジャーンッ。キッドにプレゼントでぇーすっ!」
そしてついでにイオナのこのテンションも理解ができなかった。
「ジャッジャーンッじゃねぇだろ、それ。」
「えぇ、なんで?」
「てめぇ、誰が土偶もらって喜ぶんだよ、ふざけんな!」
「えぇ!?だってホーキンスくんが…」
彼女そこまで言ったところで、慌てて両手で口を押さえた。
「まさかとは思うが。イオナ、てめぇ、俺へのプレゼントをあのカルト野郎に選ばせたな?」
「えへへ。だってキッドが何を欲しがってるかわからなかったんだもんっ。」
イオナはそう言って笑いながら、土偶の頭をよしよしと撫でる 。
実際、キッドは土偶など欲していなかった。それなのにわざわざ買わされている感じからすると…
「お前たぶん、あのホーキンスって奴に騙されてんぞ。」
と、いうことになるのだが。
「そんなことないよ?だってほら、キッドも嬉しそうにしてるじゃん?」
「いや、ねーわ。」
本人は全くその自覚なく、ただ純粋にうれしそうに笑っている。
そんな様子を見ているとやっぱり放って置けないと思えてきて、彼女には自分がちゃんとついていてやらないとと考えてしまう。
「はい、土偶どーぞ。」
差し出された土偶の表情が一瞬笑ったかのように見えたのは、きっと錯覚だ。
それでも思わず口元を綻ばせてしまうのだから、どうしようもない。
自分は間違いなく、紛れもなく、彼女を好きでいる。そしてイオナも同様に自分を好いていてくれる。
そんないつも通りのことが嬉しくて、そんないつも通りのことが幸せで。
「次からは俺に欲しいもんを聞けよ。こってり教え込んでやるからよ。」
普通に口にしたならばかっこよさげな台詞だが、土偶を手にしてこれは見事にダサい。
しかし、イオナからすればそれはとっても似合ってみえるのか、ふんふんと嬉しそうに頷いていた。
感情表現がヘタクソなキッドと、どうも感性がズレまくりのイオナ。
どうにも噛み合わせのいいらしい二人は、今日も、明日も、明後日も…。
お互いの欠点を埋めながら、いつものペースを保っていく。
「キッドが嫉妬だもんね!かわいい!」
「だから、あれは…」
「案外デリケートなんだね!」
「うっせぇよ。バカ女。」
「キッドのキャッチコピーはガラスのハートの野生児にしよう!」
「てめぇ…」
「ヤキモチ妬き〜、ヤキモチ妬き〜」
「だから、あれは全部お前らが悪いだろーが!」
The next story is Shanks.
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