ほんの少しのやりとりで
お盆休み。
1週間も休暇が取れたと恋人のシャンクスが声を弾ませるものだから、てっきりどこかに遠出するのかと思ったのだけど。
「ねぇ、お昼食べに行くんでしょ?」
「うぅ…、昨日飲みすぎた。飯は夜に食いに行こう。休ませてくれ…。」
「もうっ、良い歳なんだから、加減して飲んだらいいのに。」
大学生に怒られる社会人って…。
思わず頭を抱えてしまう。
歳上彼氏ってだけで、友達から散々羨ましがられるけれど─。
実際問題、良好な関係で居続けるには、難題だらけで。
「同窓会だぞ?盛り上がらなきゃ、つまんねぇだろーが。」
「またそんなこと言って…」
「イオナもあと10年経ったら、俺の気持ちが理解できるぞ。」
さぞ眠たそうな口調でそう言い、とっとと布団に潜り込んでしまう恋人を前に空虚感は募る。
地元を出ていた友人たちが帰省中ともあって、シャンクスは毎晩忙しそうだった。
結果的に、旅行どころか普段のデートすらできないでいるここ数日。
皮肉の一つでも言いたくなるもんだ。
「ふーん。それで、初恋の相手とでもイチャイチャしてきたの?」
布団にくるまり、みのむし化してるシャンクスをバシバシと叩く。
彼はガバっと布団から顔をだすと、ニタッと笑って言う。
「おっ、イオナ。察しがいいな?もしやお前、こっそり見に来てただろ?」
おちょくるような、からかうような物言いにイラッとした。
「─…ッ!?冗談で言ったつもりだったのにっ!」
今の発言が冗談でも腹は立つし、もし本当だったらと思うと…耐えられない。
「もういいっ!私、帰る!」
ベッド脇に手のひらを叩きつけ、乱暴に立ち上がる。
まるで引き留めてくれと言っているようなしぐさをしてしまったことを情けなく思いながらも、シャンクスに背を向けた。
「悪かった、あー、俺が悪かった。待て待て待て待て…」
シャンクスは困ったように笑いながら、腕を掴んで引き留めてくる。
「いいじゃん?初恋のおばさんのところでもいってくれば!?」
「冗談に決まってんだろ?それに俺の同級生に向かっておばさんはねぇよ。俺がおっさんみたいじゃねぇか。」
まるで子供をあやすかのように、柔らかい口調で言葉を紡ぐ恋人。チラリと表情をうかがうと、彼は困ったような顔をしながらも笑っていた。
不覚にも、その表情をカッコいいだなんて思ってしまって。
「うるさいっ!」
「そんなにプンスカしてると、眉間にシワが出来るぞ。ほら、こっちこい。」
「やだっ。やめてよっ!」
まんまとベッドに引きずり込まれ、背後から抱き締められる。
怒鳴ってやろうと息を吸い込むも、「おっ、このピアス、俺初めてみたぞ。」なんて耳元で気の抜けた声をだすものだから─なにも言えなくなってしまう。
「いい匂いだな。朝シャンか?」
「そうだけど…。」
「それにちょっと痩せたろ?」
「なんでわかるのよ?」
「イオナのことならなんでもわかるさ。」
あぁ、呑まれてる…。
わかっているのに、心地がよくて離れられない。振り払えない。
いつも、いつも、いつも、これだから。
「なぁイオナ。せっかくだし、気持ち良いことするか?」
軽い調子で言ってのけるシャンクス。
その表情はうかがい知れないけど、きっとまた楽しげな表情をしてるに違いない。
「─…。なに言ってんの?」
「なんてったって据え膳だしな。」
「据え膳って…」
「シャワーを浴びて俺のベッドに潜り込んできた。まぁ、そういうことだろ?」
「引きずり込んだのはシャンクスじゃん…」
またこうして流されて…
「ほら、ちゃんと反応してるだろ?」
「そう言うこと言わないで。」
「言われたいって身体は言ってるけどな。」
こうやって丸め込まれて…
「おい、ここすげぇぞ。」
「バカッ」
「あぁ…。すげぇ、あったけぇな。」
「─…ッ」
こうやって、この人の腕の中で幸せを感じてしまうんだから、だから…。
「やっぱ俺は幸せもんだな。」
今日はこのまま、このままこの腕の中で過ごせたらそれでいいかな。なんて。
●○●○●
数日後。
「結局お盆どっこも行けてない!」
「でも、エッチはしたろ?」
「へ?」
「俺はイキまくったけどな。」
「…─ッ!!!」
「そんな顔すんなって。あぁー、冬は、そうだ、冬は温泉でも行こう。な?」
「もうバカッ!」
歳上なのに子供っぽくて、でもやっぱり大人で、妙にバランスのいい恋人が好きで、好きで仕方ない。
The next story is Ace.
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