バルコニーで夕涼み
8月も終盤。
お風呂上がりはタオルを首からさげて、缶ビール片手にバルコニー。
これが二人の定番だ。
「今年もまた、どこにも連れていってあげれなくてごめんね、イオナちゃん。」
「いいのいいの、気にしてないし。それよりもさ、サンジ君ってば1ヶ月ほんとご苦労でしたっ。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
なにげないやりとりをしながら、どちらかともなく差し出した二つの缶がコツリとぶつかる。
それに合わせて「かんぱーい。」と小さく呟く二人。
缶に口をつけながら、視線を交わして笑い合う。そんな"いつものやりとり"ができる事も幸せだと感じられる。
それが恋人同士の良いところだろう。
「せっかく連休が取れてたんだから、友達とでも旅行に行ってくればよかっただろ?」
「うぅーん。でもなぁ。」
「不安なことでもあるのかい?」
「うぅん。不安はないよ?ただ…」
柵に手をかけ、空を見上げるイオナ。
その隣で同じように空を見上げたサンジは、「ただ?」と聞き返す。
テンポよく、というより、穏やかな会話。
そこから見渡せるのが、ただのマンションの灯りや街灯、車のライトの輝きだとしても。
その落ち着いた二人の雰囲気が、殺伐とした世界を彩ってくれる。
「サンジくんが仕事頑張ってるのに、旅行なんて楽しめないよ。」
フフッと肩をすくめて笑う。
口にするとなんだか恥ずかしく、ビールをゴクリと喉に流し込んだ。
「気にしなくてもいいのに…」
対するサンジは申し訳なさそうにそう言うと、手摺りに背中を預けタバコを口に運ぶ。
夜風にさらわれたタバコの煙が、ぼんやりと闇を濁していく。ブロンドの髪がさらりと揺れ、柔らかい視線がイオナへと向けられる。
「いつも気を使わせてごめんね。」
「気なんて使ってないって。」
「それに我慢ばかりさせてる。」
「我慢なんてしてません。」
おどけた口調で言葉を返し、ニッコリと微笑むとサンジは困ったような笑顔で宙を仰ぎ見る。
「参ったよ。イオナちゃん。」
「なにに参ったのよ。」
肘でグイグイ彼を小突くと、「ハハッ」と小さく笑って言う。
「君があんまりにも素敵だから、俺は何度も惚れ直さなきゃならないんだ。そりゃ、参るさ。」
何言ってんのと笑い飛ばしたくなるような台詞を、なんの違和感もなく言ってのける彼。
その表情はどこまでも優しくで、どこまでも温かい。
ポッと頬が染まるのを感じながら、イオナはポツリと呟いた。
「こっちこそ。」と。
なにか『特別』なことなんてなくても、ただ一緒にいられるだけで『特別』な存在。
毎日、毎日、幸せだよ。
THE next story is kid.
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