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初恋C

どう接すればいいのかわからない。

そう伝えることが出来れば、二人で最善策を考えられるんだろうか。

イオナはそんな無謀なことを考え、自分のバカさ加減に溜め息をつく。

友達以上、恋人未満。

それが幼馴染みのあり方なのだから、互いの恋愛には『勝手』に興味を持ってはいけないのかもしれない。

ノックもしないでドアを開けて、土足でドカドカと部屋へと踏み込む行為は、例えそこに『友愛』があったとしても疎まれる。

部屋と同じように、恋愛もまたプライバシーのうちの一つ。

本人に深く訊ねたり、勝手に探ろうとしたりなんてのは、嫌われる行為に他ならない。

(でも、知りたい…)

人間は見えないものや、知らないものに対して、より強い不安を覚えるらしい。昨夜の気持ちは、ピッタリ『それ』だった。

ゾロの相手が誰であるかを知ることで『安心しようとしている』自分に気がついた時、イオナは幼馴染みへの接し方を改めなくてはと考えた。

エッチした相手と付き合っていたのか。
好きだったのか。今も繋がっているのか。

そんなことを図々しく詰問してしまうくらいなら、離れた方がいい。その相手に対して嫌な感情を抱くくらいなら、知る手段を失った方がいい。

毒気の強い、澱みきった感情に心が支配される前に。

肉を切らせて骨を断つということわざがあるけれど、この場合の犠牲は肉どころじゃない。

両の手足を、臓器の一部を奪われたとしても、心だけは守りたい。共に過ごした10年間の思い出だけは大切にしたい。

初恋の相手としてではなく、単純に幼馴染みとして…

イオナはそう思うからこそ、無理矢理にでもゾロと距離を取ろうとしたのだが。

委員会が終わり、一人で下校したイオナを待ち構えていたのは、いつもよりずっと険しい表情をしたゾロだった。

「なんで…」

自宅に向かって歩くことができない。
それはゾロの表情が怖かったからではなく、自分の胸の奥に押し込めたはずのドス黒い感情が沸々し始めたから。

互いの家の距離はさほど離れていないものの、学校からより離れているのはイオナの家の方だ。それでもあえて、彼女の家の前で待っていたというのは、『話がしたい』という意思の現れのように思える。

「ゾロ…」

油断しきっていたところでの不意打ちに、昨日、出し切ったはずの熱が目頭に押し寄せる。ギュッと下唇を噛んでも、身体の震えがおさまらない。

「…話がある。」

そう告げたゾロの声は、すでにイオナの耳には届いていなかった。

「やだ…」

「イオナ?」

「来ないで!」

悲鳴のような声をあげ、踵を返して走り出すイオナ。走り慣れない革靴で硬いアスファルトをひたすら蹴る。

教科書の入った鞄が重くて、胸が苦しくて。
名前を呼ばれる度に恋しさが募って─

「待て、イオナ。」

「………っ!!!」

どんなに拭ってもおさまらない。視界を歪ませる涙のせいで、なにも見えなかった。



初恋Dへつづく


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