Sympathy | ナノ


後悔

ひとりぼっちの部屋に閉じ籠っていれば、どうしたって物思いに耽ってしまう。過去の恋愛に縛られたままの心は、曇天のように光を通さない。

自宅のベッドの上。
仰向けに寝転んだイオナは、いつの間にそこに出来たのかもわからない天井のシミを、キツく睨み付ける。

(絶対、泣かない…)

今思い返してみれば、どうしてあの男の胸を借りてしまったのだろうか。

一人でだって泣くことは可能だし、どうしても誰かに胸を借りたいのならモモがいる。彼女との友達歴はずいぶんと長い訳で、遠慮なんてする必要はなく──

「違う。」

自分から泣いたんじゃない。
泣きたいから泣いたんじゃない。

私は、泣けるように誘導されて─

『泣きてぇ時に我慢すっから、忘れられなくなるんだろーが。』

「アイツに、泣かされたんだ…。」

ぶつけられたのはストレートな台詞だったにも関わらず、イオナは今の今まで気がつけていなかった。

キッドは最初から泣かせようとしていたのだ。

彼の行動の意図を悟った途端に沸き上がったのは、紛らすことなどできないほどの悔しさ。

緩んでいた涙腺をさらに突くような台詞と、ムードを壊さない入念さ。それでいて言葉選びが乱暴なのは、魂胆を見破られないようにするためか。

思い出す必要のない感情を混ぜ返され、不本意とは言え、喪失感をさらに強く刻み込まれてしまった。

それだけでも十分に腹立たしかったというのに、さらに『感情を露見するように』誘導されたという事実が気にくわない。

「いったい、なんの意味があって…」

海賊は停滞しない。いつまでも前進し続ける。キッドだってそれに同じで、この島に留まる気など毛頭ないのだろう。気が向いたら出航して、おさらばで。

ならどうして─

宙に問いかけても答えは帰ってこない。

(置いて行くくせに!)

(捨てるくせに!)

(忘れちゃうくせに!)

だからこそ、イオナは記憶の中のエースに対してぶつけた言葉を、胸中で繰り返す。

ただヤりたいだけなら、感情の生まれない関係を築くべきだ。海賊なんて奴らは、いつだって捨てる側の人間。置いていかれる側の苦しみや悲しみを知らないから、闇雲にちょっかい出せるんだ。

最低だ。最低すぎる。

それは誰に対する怒りなのか。
過去と今から生まれる苛立ちをごちゃ混ぜにして、イオナは強く拳を握り込んだ。

「女ったらしなんて、最低…。」

悲しみや喪失感から心を守るために。
眼前に迫る孤独から、意識を逸らすために。

イオナはただ怒りをたぎらせた。


prev | next