夜更け(またか…)
サンジは胸中で呟く。
彼が耳にしているのは、廊下をヒタヒタと歩く幼ない足音。静寂の中で音を立てるスリッパがやけに陽気で嫌になる。
それはが男部屋の前で止まった時、サンジは寝返りをうち、ドアに背を向けた。
小さくガチャリと音を立てたドアノブと、こっそり押し開かれるドア。
拳を強く握る彼をよそに、足音の主は部屋へと侵入しベッド立て掛けられた梯子を上る。
(やめてくれよ。)
そう叫びたい。それでも口にできないのは、彼がまた全てを受け入れる覚悟ができていないから。
「ゾロ…。ねぇ。」
「…勘弁してくれよ。」
「ねぇ、お願い。」
すがるような、甘えるような女の声に、ゾロは寝起きの声で不満を漏らす。
「ったく…。なんで毎晩…」
「眠れないの。」
もうすでに彼女はゾロの腕の中にいるのだろう。ひどく甘く、熱っぽい声だ。そんな彼女をどう思っているのか、ゾロはさもめんどくさそうに言うのだ。
「とっとと終わらせるぞ。」と。
それからは地獄だ。
甘い吐息と荒々しい息遣いが重なり、何度も彼女がゾロの名前を呼ぶ。気持ちいい。もっと。と声を潜めてよがる。
水の遊ぶ音が粘膜の擦れる音がいやらしく響き、ところどころで彼女を嘲るようなことをゾロが口する。
ベッドの骨組みが軋みと、シーツの擦れる音が繰り返され、急に浅い呼吸の音だけを残して静寂が訪れる。
この一連の行為の間、サンジはただ息を詰める。
女が「ありがとう」とお礼を言い、寝息を立てるまで、声を荒げたい衝動を押さえなくてはならない。
いや、彼女が眠ったところでサンジは声を荒げることなど出来ないのだ。
なにせ、怒りの矛先がないのだから。
(ねぇ、イオナちゃん。どうして…)
サンジは拳をギュッと握る。
行為を目の当たりにしてから今日で3日目。
彼女はゾロを選び、求めた。
それをわかっていながらモヤモヤするのは、こうして声を、音を、雰囲気を共有させられているからか。
ゾロの寝息が彼女の寝息と重なった。
寝息すらも甘い雰囲気で嫌になる。
イオナが部屋に訪れて1時間。
サンジは一向に眠れそうになかった。
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