闇夜別に待っていた訳じゃない。そう自分自身に言い訳しつつも、サンジは結局リビングでイオナが降りてくるのを待っていた。
普段は絶対にしないが、今日ばかりはソファに寝転がり、煙草をふかす。天井を眺めながら、記憶の中の出来事にイライラしたり、虚しくなったり。
この後に及んでもまだ、あんなに無邪気な笑顔のイオナちゃんが…などと考えしまうのだからどうしようもない。
ナミやロビンは彼女を心配するようなことを口にしながらも、とっとと女部屋に戻ってしまった。
それを考えれば、ここに居続けることが正しいとは思えなかったのだが、それをわかった上で、サンジはイオナを待ち続ける。
どうにもならないもどかしさに押し潰され、深く溜め息をついたところで、芝生を踏みしめるゆったりとした足音が聞こえた。
サンジが上体を持ち上げドアに目を向けたところで、いつもと変わらない笑顔がそこに現れた。
「あれれ。」
気の抜けた声をあげたイオナは、さらに笑顔をプラスして続ける。
「サンジさん、まだ起きてたんだね。」と。
「まぁね。ちょっといろいろあって…」
「私、お風呂に入ってきますね。」
「え?」
「寝汗かいちゃったんです。」
彼女はえへへと笑うけれど、風呂に入る理由が寝汗だけではないことくらい充分に理解している。
むしろそれがわかっているからこそ、その笑顔が嫌で、もどかしくてたまらないのだ。
「ここで待ってるよ。」
サンジは思わずそう声をかけてしまう。イオナは一瞬驚いた顔をしたものの、「寝ちゃダメですからね。」と肩を竦めて部屋を出ていった。
俺に近寄らないようにしたのも、先に風呂に向かったのも、アイツの匂いを消すためか──。
そんなことをつい考えてしまう自分に嫌になる。
確かに他の男の匂いをプンプンさせながらここに居られても、快く思える訳がない。それを思えば、イオナの取った行動はまともと言える。
それでもグルグルと頭をめぐるのだ。
あの光景が、あの声が、映像が、音声が、匂いが、言葉が、蘇り心を削いでいこうとする。
「クソやべぇなぁ…」
ただハマるとか、夢中になるとか、そんな言葉で現せるほど軽くない。きっといろいろなことを意識しすぎたせいで、ドロドロした感情が強くなってしまったのだろう。
愛情を煮詰めすぎた時出来上がるのはどんな感情で、どんな想いなのか。
それがポジティブなものではない気がして、サンジはまた煙草に火をつけた。
肺へと流れ込んだニコチンは、すぐに血液に溶け込み、中枢神経を刺激する。それが麻痺であるとわかっていながらも、気持ちが軽くなるのはありがたいことだった。
このままではいけない。
一時的にネガティブな感情が引いたのを感じた彼は、それが"錯覚"であるとわかっていながらも、自身を奮い立たせる。
まだ夕飯を食べていないイオナに、なにか作ってあげよう。
それは彼女のためなのか。自分のためなのか。サンジは重い腰をあげるとキッチンの中へと入った。
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