ゾロ短編 | ナノ


仲直りのスキンシップ

ほら、はじまった。

熱心に謝りながらも彼の腕は
ほどよい力加減で私を抱き締める。

きっとこのままベッドに押し倒して
誤魔化すように口づけて、
脱がすことに成功しまえば
この男は仲直りをできた気になり
艶っぽい表情で甘い言葉を囁いて
喜ばしげに腰を振るんだ。

「愛してる、イオナ。」

耳元で囁かれた温かな愛の言葉は
身体の芯から私を震わすけれど
でもどことなく虚しさが募る。

「ごめんな」と「愛してる」が
同じタイミングで放たれるなんておかしい。

「ほんとにそう思ってる?」

「いつもお前しかみてねぇよ。」

火照る頬を皮膚の厚い大きな手のひらになぞられて、
とろけてしまいそうになるけれど
やっぱり、やっぱり虚しくって。

「やだ。今日はやんない。」

わざとらしくフイッと顔を背けて
淋しげな彼の瞳から目を背ける。
髪の先にまで触れる優しい指先にほだされそうで、
視線を交わせば許してしまいそうで。

「イオナ、悪かったって…」

「別にやんないってだけで、
許さないとは言ってないし。」

そんな目で見ないでよ。

そう言いたくなるほど、
不安げな瞳がこちらを見据える。

「なんで嫌がんだよ、なあ。」

唇に触れた指先がいじらしく
スッとそこを撫でる。

折れてしまいたい。でも、

『エッチ=仲直り』

みたいな言い方をされると、
心なしかまだ許してはいけない気がする。

内心怒っていていても、
わだかまりを抱えたままでも
エッチなんて出来るじゃないか。

そう言ってやりたい。

でも言えっこない。

キッとゾロに視線を向けると、
彼は軽く口角をあげて
甘えた媚びるかのような笑顔をこちらに向けていた。

こうしていると少しずつ苛立ちが引いて
また今夜も流されてしまいそうで。

うっかり見とれているうちに
こちらの心が揺らいでるの気づかれてしまった。

寂しげな表情とは裏腹に
瞳の奥はいつもように鋭く光り、
視線は胸元に流れた。

そのまま顔を沈めた彼の吐く
甘い吐息が首筋や耳元を撫で、
「愛してる…。」と甘く囁かれた言葉に
芯が震えて身体が火照って。

あぁ、もうだめだ。

また流されてる…。

「ねぇ、ゾロ…」

「ん?」

ブラウスのボタンを外し始めていた手が止まる。

「どうして、こうしたいの?」

そう問いかけると、ゾロはソッと顔を持ち上げた。

彼はとても難しい困った顔をしていて
ちょっとだけ可愛く思える。

そう…。もっと困っちゃえ。

私のせいで困って、私のせいで戸惑って
もっともっと私のことを考えて。

他のことなんて考えれなくなっちゃえ。

「どうしてって、それは…」

青筋の浮かぶ額に、
軽く動く眉とそらされた視線。

戸惑う様子がたまらない。

愛しくて、恋しくて、
いっそ触れてしまいたくなってきて

あれ?どうして私はこんなに
彼を拒んでるんだろう。

なにと戦ってるんだろう。

『エッチ=仲直り』

違う。そうじゃない。

エッチで許す、許さないを測ってる訳じゃない。

「イオナ、俺はただ…」

困ったように呟く彼の頬に手を触れて
薄い唇をそっとなぞる。

無意識に口元の緩んでしまう
自身の意思の弱さを許してしまうほどに
愛しいが募って。

「理由なんてない…とか?」

先に答えを導いてしまう。

じんわりと汗を滲ませた身体に
頬を寄せて指を絡める。

「まじでかわいいなあ…。イオナ。」

独り言のようにそう呟いて、
おでこに口づけを落とすゾロの表情を
こっそり盗み見る。

「なに?急に。」

安心したような柔らかいこの表情は
こんなときにしか見せない、特別なもの。

「別に…」

照れた顔がまたかわいい。

戦ってる時の殺気を放つ彼と
同一人物だとは思えない。

こんな時、ついつい意地悪を言いたくなる。

「エッチが好きなの?私が好きなの?」

胸元に指を這わして、
上目使いなんて私も大概だ。

「あぁー。もう、勘弁してくれよ…。」

そう言いながらも
私をぐっと抱き寄せて目を細める彼を
ただまっすぐに見据える。

「お前が毎日プリプリしってから、
こっちは毎日ヒヤヒヤしてんだぞ。」

嘆くようなその物言いに
「なにそれ。」とおもわず吹き出してしまって

「そんなリアクションされると思った…」

彼は呆れたように呟いた。

喧嘩になるたびに
私は思ってもない言葉をぶつけて
不貞腐れて、顔を背けて、
その行動にこの人はヒヤヒヤしていて。

はぐらかされてるんじゃないかと
モヤモヤしている私とおなじように
ゾロも不安になっている。

「仲直りしたんだから、
いろいろ確かめたくもなるだろ。」

「やだ、いやらしい。」

「いやらしいってなんだよ!」

理屈じゃなくて、
必要とされてるんだとおもうと
無性にうれしくなってきた。

「ちゃんと繋ぎ止めておいてね。」

「自分で言うなっての。」

いつまでも照れ臭そうにしたままの
ゾロの腕のなかで考える。

『エッチ=仲直り』

そんな風に思ってムッとしていた
私の方がどうかしてたんだって。

こんなに愛されてるのに、
なにを疑ってたんだろうかって。

勝手に悩んで勝手に答えを出して
勝手にそれに納得する。

付き合わせてごめんね、ゾロ。

胸一杯に彼を香りを吸い込んだ。








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